死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

「誰にも言いません。だから本当のことを教えてください。……お父上も、同じ病で倒れられたのですか?」
 
 心配そうな面持ちでそう尋ねられ、私はコクリとうなずいた。じわりと涙が浮かんできたが、下唇を噛んで泣かないようにぐっとこらえる。

「半月ほど前から熱や咳が出てきて……。父は医者だから、すぐに発症したとわかったみたいです」
「使用人の姿が見えませんが、琴乃さんおひとりで看病を?」
「はい。最後に残った女中にも暇を出しました。この家にいるのは怖いでしょうから」

 仕方ないと納得するように、天澤さんが小さくうなずいた。
 
「あ! 私は症状がまったく出ていないので。それと、この家も大丈夫です。毎日きちんと消毒しています」
「わかっていますよ。かすかに石炭酸のにおいがしていますから」
 
 製薬会社の社長である天澤さんは、すぐに消毒液の独特なにおいに気づいたらしい。

「琴乃さんおひとりで、大丈夫ですか?」
「父は毎日、自分で闘病日誌を書いていますから、私は父に従って看病するだけです」

 母が弟の看病で疲弊していたのも、私は見てきている。
 だから、絶対に共倒れにはならない。父と一緒に、病に打ち勝つつもりだ。

「琴乃さんは、強い女性(ひと)ですね」
「いえ……必死なだけで……」