死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

「少し……体調を崩していて」
「ではお見舞いを……」
「それはダメです」

 沈黙が流れる中、天澤さんは淹れたてのお茶には手をつけず、私の様子をじっとうかがっていた。
 その切れ長の瞳は、すべて見透かすように鋭い。

「千太くんと奥様の葬儀があまりにも質素で、立て続けに亡くなられたことから、実は悪い噂が立っています。……タチの悪い病だったのだろう、と」
「え……」
「桐ケ谷先生は、千太くんたちの病状について話してくれていましたので、私は知っています。……その病が、労咳だということを」

 ハッと息をのんで顔を上げる。心臓が早鐘のように打ち、顔から血の気が引いていくのがわかった。
 労咳は世間から忌み嫌われ、おぞましいものとして扱われる死病だ。だから、誰にも言わず隠しておいたのに……。
 
『おそらく、開けていても誰もこないだろう。息子を亡くし、そのあと妻まで亡くしたんだ。悪い噂が立つに決まっている。ふたりが労咳で死んだという事実も、広まるのは早そうだ』

 父の予想は当たってしまった。
 人の口に戸は立てられない。私が街を歩いたら、石をぶつけられるかもしれないと思うと、今後どうしたらいいかわからなくなってくる。