死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

 父は——四十九日法要に出られなくなってしまった。
 一番恐れていたことが起きた。現実になるのが怖くて、絶対に口に出してこなかったのに……。
 父にも発熱の症状が現れたのだ。そして、年の瀬にはしだいに寝込むようになる。

「お父様、もっと着込んでください。寒いでしょう」

 自ら離れに閉じこもった父に着替えを持っていき、そう声をかけた。
 空気がこもってはいけないからと、縁側へと続く障子や戸を開けて換気していることが多いため、部屋の中はかなり寒い。

「琴乃、すまないな。診療所から、次はこの薬を取ってきてくれ」

 父が私に薬の名前を書いた紙を手渡す。
 咳を沈めたり、痛みを取ったりできないかと、いろいろな薬を試しては日誌に記録しているみたいだ。

「はい。すぐに持ってきます」
「薬は廊下に置いておいてくれたらいい。できるだけこの部屋には入るな。それと、絶対に消毒を怠るなよ」
「……承知しています」

 感染防止のため、私は父の言いつけを守って看病していた。
 この部屋に来るときは必ず、白い手ぬぐいを二重に折り、鼻から顎までをすっぽりと覆って頭の後ろで固く結んでいる。
 これこそが父から教わった、死病の魔の手から身を守るための最低限の防壁だった。
 後ろでまとめていた髪はいつの間にか乱れ、今の私には街を歩く女学生のような華やかさは微塵もない。