死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

 幸い、ふたりで暮らしていくくらいの蓄えはあるはずだ。
 今いるすべての女中に暇を与えなくても、ひとりくらいは残すこともできると思う。

「もし、ここに住みづらくなったら、他の場所へ移ってもいいわ。お父様なら、どこにいても診察できますもの」
 
 自然豊かな郊外に住むのも、空気が綺麗で癒されそう。医者のいない村なら、父と私は歓迎してもらえるだろう。

「すまない。……お前の嫁ぎ先を考えてやらなきゃいけないのに」

 世間では、『女は、女学校を卒業したらすぐに嫁ぐべき』という風潮だから、父は私の結婚のことが気がかりらしい。

「いいんです。私はずっとお父様のそばにいます」

 冗談だろうと言わんばかりに、父は苦笑いをして首を横に振ったが、私は大真面目だった。
 家族がふたりもいなくなったのに、私まで嫁いだら父はひとりぼっちになってしまう。そんなのダメだ。
 
「ふたりとも盛大に弔ってやれなかったから、一周忌は寺でしっかり供養してやらなきゃな」
「そうですね」

 母の四十九日法要を済ませたら、千太と一緒にお骨をお墓に移して手を合わせよう。
 その後は、お花や供え物、香りのいい線香を買って、父とふたりで会いに行く。そんなふうに話していたのだけれど……。