朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 ようやく姉妹が手前のソファに座ると、テーブルを挟んだ先に座る国王と王妃に対面する形になる。ポーラよりも度胸のあるランナが口火を切って発言する。

「あの、私たちの罪とか逮捕とか、一体どういう事ですか?」

 モニカは何も答えずに隣のアサに視線を向ける。あくまで会話の主導権は国王のアサにある。

「あぁ、申し訳ありません。あれは建前というか口実というか。表向きは少し重めに話を盛りました」
「え……なぜですか?」
「モーメントの役場には連行の許可を得ました。あなたたち姉妹の身柄は僕のものです」

 アサは正当な理由と手段で姉妹をここに連れてこようとしたのは分かる。律儀ではあるが犯罪者にされるのは理不尽だ。
 その時、部屋に執事らしき中年の男性が入ってきて、テーブルの真ん中にガラスの小瓶を置いた。それを見たランナが身を乗り出して反応する。

「それは、私がヒル様に調合した薬!?」

 アサはその小瓶を手に持つと、ランナに見せつけるようにして軽く振る。瓶の中で複雑な色合いの粉薬がサラサラと揺れ動く。

「やはり、そうでしたか。体調が良くないのは、この薬のせいですね」
「アサ様がそれを飲んだのですか? それはヒル様のお体にしか合わない薬……」

 そこまで言ってランナは口を噤んだ。その薬の独特な色は、間違いなくヒルの生気の色。ランナが調合してヒルに渡した風邪薬に間違いない。
 その魔法薬がここにあるという事は、やはりアサとヒルは兄弟。おそらくヨルもだろう。

「アサ様とヒル様って……」

 ランナが言いかけた時にソファの後ろに控えていた執事が動いた。その手には銀色の懐中時計を持っていて、アサの横に移動すると小声で囁く。

「アサ様。もうすぐお時間です」
「……もうそんな時間ですか。残念ですが、僕はこれで失礼します」

 何やら時間を気にしている様子なので、ランナが横を向いて壁掛け時計を見ると昼の12時直前であった。
 国王ともなればスケジュールも詰まっているのだろう。単純にアサは忙しいのだと思った。
 しかしアサは立ち上がろうともせずに隣のモニカと目を合わせる。モニカは察しているようで無言で頷く。

「それではモニカさん、また明日。後は頼みましたよ」
「承知いたしましたわ、アサ様」

 壁に掛かっている振り子時計が鐘を鳴らす。ボーンボーンと腹の底にまで響くのは空腹のせいだろう。昼の12時だから当然だ。
 ランナが呆然と振り子時計を見つめていると、隣のポーラが肩を揺すってきた。

「ランナ、見て、アサ様の髪が……!」
「え?」

 視線を横の壁から正面に戻すと、アサの顔ではなく髪に目がいく。銀色のアサの髪が太陽の光でも浴びたかのように光り輝きながら金色に色付いていく。
 驚く間もなく一瞬にしてアサの髪は金髪に変わっていた。その不可思議な現象よりも、改めてアサの姿を見た時にランナは別の驚きに声を上げる。

「……ヒル、様……?」

 金髪に赤い瞳。その姿は紛れもなく、ヒル・ヴァクト。ランナが昼に出会った彼であった。目の前で髪の色が変わっただけではない。アサがヒルに変わったのだ。