特別授業の教室で私は宿題をして、柊先輩が来るのを待っていた。
「ここ、あとで教えてもらおうかな…」
ガラっ
扉が開いて柊先輩と朝陽くんが入ってきた
「柊先輩、おつかれさまです」
「もういたのか、早いな」
高嶺先輩はいないのかな?
「特別授業とは言っているが、別に授業するわけじゃなくて自習みたいな感じだ。わからないところ
は聞いてくれ」
そうなんだ…
「柊さん、ここって三人だけでしたっけ、聞いてたより少なくないすか?」
「あぁ、本当は五人なんだが…」
そのとき、扉が開いてかわいい声が聞こえた
「こんにちは~」
入ってきたのは、凪咲くんと涼くん。
「今日からよろしくお願いします」
涼くんは丁寧にあいさつして慣れた手つきで、私の後ろに座った。
「柊くんが先生かぁ」
「凪咲くんっ、先輩だよ…!」
先輩に「くん」なんて…
「大丈夫、柊くんとは友達だからね」
凪咲くんはかわいくウィンクをして柊さんのほうを向いた。
でも、柊先輩は苦い顔で見ている。
「友達になった覚えはないが…」
「前回の特別授業で、一緒だっただけじゃない?」
涼くんの言葉に私は驚いた。
「前回もあったの!?」
「うん、そのときは結衣以外、全員いたよ」
だから、朝陽くんも柊先輩のこと知ってたのか…
すべてがつながって納得した
「そういえば結衣って、なんで特別授業に参加したんだ?」
朝陽くんに聞かれて、「えっ」と答えに詰まる。
「え、えっと…」
どうしよう、テニスのことは言えないけど、うそをつくのも心が痛い。
「朝陽はなんで参加したの?」
涼くんが話を変えてくれて答えずに済んだ。
ありがとうっ
「俺は、陸上の練習とかがあって学校休むこと多いから、先生に強制的にここに来させられた」
「あと、成績に問題があるからねっ」
凪咲くんの付け足した言葉に、顔を真っ赤にして怒る朝陽くん。
朝陽くんのテストの結果ってそんなに悪かったっけ?
頭がいい学校だし、基準も高いのかな…
「う、うるせぇ。そんなに頭悪いわけじゃないし…!」
必死に否定する朝陽くんに、みんな笑っていた。
「そ、それより、お前はなんでいるんだ」
涼くんのことを指さして大声で話を遮る。
「…秘密」
口の前に人差し指を立てて、さわやかな笑顔でそう言った。
うっ、笑顔がまぶしい。
「気になるじゃねーか!」
朝陽くんは、今すぐ教えろと言わんばかりに身を乗り出した。
たしかに、秘密って言われると気になる…
でも、私みたいに言えない秘密かもしれないし、あんまり聞きこむのはよくない気が、する。
「教えてよ~」
かわいくおねだりする凪咲くん。
「そ、そういう凪咲くんはなんで参加したの?」
さっき話を変えてくれたお礼に、私も話を変えた。
「ぼくはね~、宿題さぼってたら怒られちゃったんだっ!」
きゃぴきゃぴと音が鳴りそうなしゃべり方。
「そうなんだ…」
宿題をさぼったことがないからわからないけど、怒られるのはちょっと怖い。
これからも宿題をしっかり出そう。
「前回も思ったんですけど、玲さんって頭いいですよね」
涼くんの質問に私はびっくりした。
頭のいい人なら特別授業なんて受けなくてもいいんじゃ…
ん…? もしかしてここにいる人たちって全員頭がいい…
成績表なんて全部5とかの人たちじゃない!
「結衣、どうしたんだ? 顔が真っ青だぞ」
「ほんとだ、顔色悪いよ。保健室行く?」
柊先輩にのぞき込まれて思わずのけぞる。
「ここにいる人って、全員テストで上位の人たちだから… そうすると、私だけが置いてかれちゃう
と思って…」
話し終わると、みんなわけが分からないといった顔になっていて、私のほうが困惑してしまった。
「ど、どうしたんですか…」
私変なこと言ったかな?
「…結衣って、順位表みた?」
「見てないよ。あまり興味がなかったから…」
見てないけど、みんなが頭がいいことはわかる。
「なるほど、そういうことか…」
朝陽くんが頭を抱えて、納得した。
「ちょっと待ってて、順位表持ってくるから」
涼くんが教室を飛び出して一分ほどで帰ってきた。
「…えっ」
順位表には、一位:壱岐涼:如月結衣、三位:天沢凪咲、と書かれていた。
「結衣はおれと同じ点数だったから、一位。全然大丈夫だよ」
驚くばかりの私に柊先輩は笑い出した。
「このなかで、一番心配なのは朝陽というわけだ」
そっか…
「ちょっと、安心しました。でも、満点ではなかったので、これからよろしくお願いします」
笑顔でそういうと、柊先輩は真っ赤になりそっぽを向いてしまった。
この教室暑いかな?
首をかしげると、凪咲くんが飛びついてきた。
「わっ、どうしたの」
「結衣っかわいい」
急にそんなことを言われてまた驚いてしまった。
「凪咲くんのほうがかわいよ」
今日は驚いてばっかだな。
でも、かわいい弟ができたみたいでうれしい。
あまり時間が残っていなかった末、質問会になった。
高嶺先輩は、ほとんど授業を受けていないから一応参加しているらしい。
それでも、ずっと一位なんてすごい…! 私なんて必死に勉強しているのに!
だから、柊先輩も教えることがないからほとんど自由時間なんだって。
家に帰っている途中、お兄ちゃんにあった。
「おつかれ、勉強できた?」
「今日は、みんなといろいろ話してたから勉強はしてないよ」
そういうとお兄ちゃんは、あきれたような顔になった。
「まぁ、あのメンツで勉強しそうなのは、柊と壱岐くらいだからな…」
「で、でもみんなと仲良くなれて楽しかったよ!」
みんな優しかったし、何よりいろんなお話が聞けて楽しかった。
勉強はお兄ちゃんにでも教えてもらえばいいし…
「ふーん…」
笑顔の私とは逆に、少し影を落としているお兄ちゃん。
「どうかしたの?」
「ううん、何にもないよ。それより、テスト一位だったんでしょ? すごいね」
素直にほめてくれるお兄ちゃんにうれしくなって、パッと話を切り替えた。
「ふふっ、ありがとう。でも、満点じゃなくて少し悲しかったな……」
「結衣はレベルが高いな。見習わないと」
そういいながら頭をなでてくれるお兄ちゃんに、ぎゅうっと抱き着いた。
いつでも優しい、そんなお兄ちゃんが大好きっ。
「あいつらに言っとかないと…」
すごく小さな声でつぶやいたお兄ちゃんの声は、私には聞こえなかった。

