陽炎に揺れる夢

教室では劇の練習が中心になってきた。

役者や照明、音響の人たち以外は、舞台の世界観を作るための作業に取り組んでいる。

そんな中、周りの会話の端々から、ちらほらと私のインスタのことが聞こえてきた。

「見た見た、ボータンのインスタ。あの男の子、可愛いよね」

ボータンは、私のインスタのユーザー名だ。

その単語が聞こえる度に、心臓が縮むような感覚になる。

(大丈夫、絶対に私のだってバレない。バレようがない。)

そう自分に言い聞かせる。

握った手のひらには、じっとりと汗が滲んでいた。

ビクビクとした一日は、終了を告げるチャイムとともに終わっていく。そんな数日を過ごした。

朝比奈君と約束した日の放課後、私は撮影のため、あの公園へ向かった。

金木犀の香りが辺りを包み、その花と同じオレンジ色に染まりつつある空を背景に、朝比奈君は前回のチャコールグレーのコートを羽織って待っていた。

風は少し冷んやりとして、葉っぱをいたずらに落としていく。

私は、朝比奈君と相談して作ったスマホショルダーを彼に手渡した。

パッチワークのように、毛糸で編まれた正方形を繋ぎ合わせ、色彩豊かに仕上げたものだ。

前回、朝比奈君が登場しただけでインスタが思わぬ反応を呼んでしまったため、今回は顔を写さないように撮影することになった。

カシャ カシャ

静かな公園にシャッター音だけが響いた。

「今日もありがとう。」

撮影も済み、二人でベンチに腰掛けた。

朝比奈君は、脱いだコートをバックに入れながら、

「いや、こっちこそ、なんか迷惑かけちゃったよな…。」

とそのまま黙ってしまった。

さっきよりも冷たい風が二人の間を通り抜けていく。

「何だか不思議な気分だよね。私たちは相変わらずこうして隠れているのに、私たちが作り上げていく物は、世間の目に晒されている」

「そうだな…。不思議だな。しかも、それが良い評価になって、お互いが勝手に『イケてる人』に作り変えられている。」

「大丈夫…だよね…」

「あぁ…。」

(大丈夫…)

私たちは、そう静かに自分に言い聞かせた。

「いつも通り、普通のふりをしなくちゃ…」

(あっ、いつも普通じゃないのか…)

そう思いながら、今日撮ったスマホショルダーの写真と、花柄の三角ショールをインスタにアップして、私は休んだ。