陽炎に揺れる夢

撮影場所は、とりあえず私の家の近くの公園に決まった。

少し高台にあるその公園は、夕方になると人通りも少なくなる。

夏休み明けは、まだまだ暑い。
太陽は夕方になっても、沈む気配すらない。

ゆらゆら揺れる陽炎は、熱せられて湯気を立ち上らせているみたいに、重たい水分を含んでいた。

そんな中、マフラーを巻いてもらって、撮影をしなければならない。

制服だと学校がバレてしまうし、冬物なのでコートも持ってきてもらっている。

(……公園は、失敗だったかな。
うちに来てもらえばよかった。暑すぎるよね)

家に撮影用の荷物を取りに帰り、公園へ向かった。
上り坂なので、着いた頃には汗だくで、息も切れていた。

はぁ、はぁ、はぁ。

「暑い……」

少し息を整えてから、公園に足を踏み入れる。
日陰で休んでいる朝比奈君の姿が見えた。

「ごめんね、遅くなって」

急いで近寄ると、

「大丈夫だよ。ここ、涼しいし」

そう言って立ち上がり、

「ここ、眺めがいいな」

と、空に向かって手を伸ばすみたいに、
うーん、と伸びをした。

背の高い朝比奈君は、さらに大きく見えて、
木陰を作っている木の一部みたいだった。

(朝比奈君と、私とでは、見ている景色が違うんだろうな)

どんな景色なんだろう、と少しだけ思う。

「暑いね。こんな中、コートとマフラーで撮影なんて……どうかしてるよね。
もし良かったら、私の家で撮影しない? エアコン、つけられるから」

申し訳なくて、そう提案した。

「大丈夫だよ。汗で髪が濡れてるみたいだったら、言って」

朝比奈君は、ちゃんと設定のことまで考えてくれているみたいだった。

「ズボンはどうしよう。制服だけど……」

私たちはお互い、誰かに特定されたいわけじゃない。

正体を知られないまま、ほんの少しだけ、自分の夢を叶えたいだけなんだ。

「制服だけど、何の柄もないただの紺のズボンだし、大丈夫じゃないかな。一応、ロングコートも持ってきたし」

朝比奈君は、トートバッグからコートを取り出した。

チャコールグレーの、シンプルなロングコートだった。

「それじゃ、始めようか」

そう言って、朝比奈君はコートを手に持ったまま、迷いなく歩き出した。

「どこに行くの?」と聞くと、

「街を見下ろせる場所のほうが景色はいいんだけどさ」

「でも、それだと、この場所が特定されるかもしれないだろ。だから、どこだかわからない、ありふれた景色のほうがいいと思って。もう、探しておいたんだ」

どうやら、写真の画角まで、もう頭の中に入っているらしい。

「遠野、写真を撮る時は、この位置から、こっちを向いて撮ってくれない?」

そう言って、朝比奈君が示したのは、周りに道も遊具もない、少しだけ木が立っている場所だった。

(確かに、どこにでもありそうな景色だな)

「わかった。ありがとう。じゃあ、もう少ししてから始めよう。少しは涼しくなるし、西陽も差してくるから、綺麗に撮れそう」

「そうだな」

私たちは、日陰に置かれたベンチで休むことにした。

一応、家から冷たいお茶を持ってきていたので、ペットボトルを朝比奈君に渡す。

「サンキュー」

そう言って受け取った朝比奈君は、それを首筋に当てて、

「冷たっ」

と、気持ちよさそうな顔をした。