ゆらゆらと地表からの空気が揺れている。

それは夢や幻のように儚く立ち上っては消えてゆく。

そこには実体はなく、ただ景色を歪ませて映し出しているだけだ。

あの中に入れば、違う世界に行けるだろうか。

私が、存在しうる世界に……。

私は、そこへ向かって一歩を踏み出した。

重たい前髪に塞がれた両目に映るのは、いつも地面ばかりだ。

揺れていた空間を越えたところで、制限された景色は何も変わらなかった。

「ただいま……」

誰もいない家に、帰宅を告げる挨拶をする。

両親は仕事、祖父母たちは高齢者向けマンションに移っていた。

今まで返事を返してくれていた曽祖母は、今は写真の中に収められている。

蝋燭に火を灯し、線香をあげる。

「ひいおばあちゃん、ただいま」

と、もう一度声をかけた。

私が幼少の時の家族は所謂、典型的な昔ながらの大家族だった。

父、母がいて、父方の祖父と祖母、さらには曽祖母が暮らしていた。

だから私は、『人の最期』というものも、わりと身近にあった。

寿命を全うしていく。

その時の顔は、苦痛を感じているようには見えなかった。

私は……あんな顔で、終われるのだろうか。

あと何年、何十年も、私の目に映るものは、前髪の細い隙間から覗いた世界だけなのだろうか……。

ゆらゆらと、景色が揺れる。

それは、私の身体から立ち上っていた。