ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。


 隣に並んだ肩へ腕を回し、引き寄せる。

 まずは香りを味わい。
 それから、二人同時に縁へ口をつけた。

「途中は、あんまり聴き取れなかったなあ」

 ふうっ、と息を吹きかけながら、呟いている。

「やっぱり、会話より歌のほうが難しいかも」

 彼女がロンドンに来てから、四か月。
 持ち前の明るさで、住民たちとは多少の日常会話を交わせるようになっていた。

「ハルは、聴き取れた?」

「まあ」

「どんな感じ?」

「…………」

 軽い音を立て、カップをローテーブルに置く。
 それから、ゆっくりと手を伸ばした。