引き継ぎノートを書く時、私は無意識に眉を寄せているらしい。千夏に何度か「そんな顔しなくていいじゃん」と笑われたことがある。
あの顔をこの人はずっと、好きだと思って見ていたのか。
自分では気づいていなかった、格好悪いとさえ思っていた場所を、藤堂さんは目で追い続けていた。
目の奥が少しだけ滲んだ。泣くつもりなんてなかった。でも、堪える方法がわからなかった。
足音だけで、私だとわかった朝。あなたにだけ見せたくなかった、という声。今朝、角を曲がった瞬間に合った目。全部、そういうことだったのか。
滲む視界の向こうで、藤堂さんがじっと私を見つめている。
「私も、好きです。ずっと……あの日、搬入口で猫に振られている藤堂さんを見た時から、どうしようもなく、好きでした」
藤堂さんが私を見た。眼鏡の奥の目が、ゆっくりと細くなる。
「ありがとうございます」
それまで聞いたことのない温度だった。
橙がくしゃみをして、二人同時に橙を見た。
藤堂さんがもう一度、橙に向かって手を伸ばす。



