その崩れ方が、好きです〜完璧なホテルマネージャーは、私にだけ素顔を見せる〜


ある朝、また早く目が覚めた。

あの日からずっと、あなたにだけ、という言葉が体の中で熱を持って燻り続けていた。

着替えて家を出て、いつものように搬入口へ向かう。自分が何をしに行くのか、わかっていた。足が止まらなかった。

角を曲がると、藤堂さんがいた。今朝も、こちらを向いて立っていた。

角を曲がってすぐの場所で、私が来るのを待っていた。橙もいた。

今日は段ボールの陰を出て、搬入口の扉の脇に堂々と座っている。

藤堂さんが手を伸ばすと、いつものようにすっと身を引いた。逃げずに距離を保ったまま、琥珀色の目でじっとこちらを見ている。

藤堂さんが軽く頷いた。

おはようございます、と口が動く。私も頷いた。並んで、橙を見つめる。しばらく、お互い喋らなかった。

ひんやりとした静寂の中、二人分の白い息だけがゆっくりと混ざり合っていく。

チラリと盗み見た彼の横顔は、今日もまっすぐ前を向いていた。いつも通りの静かな佇まいのままなのに、胸ポケットには眼鏡が仕舞われており、橙を見る目はどうしようもなく優しかった。

──もう、引き返せなかった。

私は前を向いたまま、口を開く。

「藤堂さん」

「はい」

「その崩れ方が、好きです」