「あなたにだけは、見られたくなかった」
「え?」
「かっこ悪いところを」
藤堂さんが視線を逸らした。どこか行き場を失ったように。いつもの端整な顔に似合わない、むき出しの言葉だった。
「誰に見られても、平気なはずだったんです。マネージャーですから。でも、あなたにだけは──情けない姿を見せたくなかった。理由は、自分でもうまく言えません」
言葉を選ぶような、珍しい間があった。
──あなたにだけ。
その言葉が、冬の光の中に残った。私は足を一歩だけ、藤堂さんの方へ踏み出した。
「……私は、見たかったです」
声が出たのか、届いたのか、自分でもよくわからなかった。
藤堂さんがこちらを向いた。眼鏡の奥の目が、何かをためらうように揺れた。それから、先に歩いていった。
追い越しざまに視線が合った。その目の奥に、今まで見たことのない表情があった気がした。
私は、しばらくそこに立ち尽くしていた。
あなたにだけ、という言葉が、指先からじわじわと熱を持って広がっていった。
◇
それからの数日、フロントですれ違うたびに、藤堂さんの視線がほんの一瞬だけ長く私に留まる気がした。
何か言いたげに口を開いて、結局「お疲れさまでした」とだけ言って去っていく。その背中を見送るたび、私の中で何かが膨らんでいくのがわかった。
きっと、あの日から、二人とも同じことを抱えていたのだと思う。



