その崩れ方が、好きです〜完璧なホテルマネージャーは、私にだけ素顔を見せる〜


「あなたにだけは、見られたくなかった」

「え?」

「かっこ悪いところを」

藤堂さんが視線を逸らした。どこか行き場を失ったように。いつもの端整な顔に似合わない、むき出しの言葉だった。

「誰に見られても、平気なはずだったんです。マネージャーですから。でも、あなたにだけは──情けない姿を見せたくなかった。理由は、自分でもうまく言えません」

言葉を選ぶような、珍しい間があった。

──あなたにだけ。

その言葉が、冬の光の中に残った。私は足を一歩だけ、藤堂さんの方へ踏み出した。

「……私は、見たかったです」

声が出たのか、届いたのか、自分でもよくわからなかった。

藤堂さんがこちらを向いた。眼鏡の奥の目が、何かをためらうように揺れた。それから、先に歩いていった。

追い越しざまに視線が合った。その目の奥に、今まで見たことのない表情があった気がした。

私は、しばらくそこに立ち尽くしていた。

あなたにだけ、という言葉が、指先からじわじわと熱を持って広がっていった。



それからの数日、フロントですれ違うたびに、藤堂さんの視線がほんの一瞬だけ長く私に留まる気がした。

何か言いたげに口を開いて、結局「お疲れさまでした」とだけ言って去っていく。その背中を見送るたび、私の中で何かが膨らんでいくのがわかった。

きっと、あの日から、二人とも同じことを抱えていたのだと思う。