「……さあ。香坂さんなら、理由がわかりますか」
真顔で、試すように、あるいは縋るように言った。私は少し迷って、正直に答えた。
「怖いからじゃないですか、たぶん。普段が」
沈黙が流れる。しまった、と思った。言いすぎた。だけど、藤堂さんは怒らなかった。
「怖いですか? 私」
「隙がなく、完璧なところが」
「そうですか。他人にそう言われても気になりませんが、橙と香坂さんに敬遠されるのは、少し堪えますね」
声に、いつもより少しだけ柔らかい色があった。
──香坂さんに。
他の誰でもない、私を特別に指すような響きに、胸の奥で何かが一拍だけ大きく鳴った。
完璧な彼の世界に、自分が確かに踏み込んでいる。その事実に頭がクラクラして、気の利いた返事すら浮かばない。
ずるい、と思った。そんな顔をして、そんな声を出すのは反則だ。
「……すみません、そろそろ戻ります。これ以上、持ち場を空けるわけにはいきませんから」
私が呆然と立ち尽くしていると、藤堂さんがふっといつもの硬質な表情に戻り、私に背を向けた。
寂しさを覚えながら、私もフロントへ向かおうと歩き出した。そのときだった。
「香坂さん」と声がかかった。
振り返ると、藤堂さんがまだ搬入口の前に立っている。



