その崩れ方が、好きです〜完璧なホテルマネージャーは、私にだけ素顔を見せる〜


普段の即断即決とは全然違う、困ったような時間が流れた。

「……橙、はどうでしょう」

至って真剣な顔で、彼が言った。

「それ、色ですよね」

「オレンジだと、外来語なので」

私は一瞬、言葉に詰まった。

「だいだい、っていうんですか」

「はい」

「今、考えたんですか?」

「はい」

何か言おうとして、言えなかった。また笑いがこみ上げてきて、私は口元を手で押さえた。

藤堂さんは真剣な顔のままだ。その真剣さが余計におかしくて、肩が震えた。

橙は命名された自覚がないのか、知らん顔で毛づくろいを始めた。

それからしばらく、二人で並んで猫を眺めた。

藤堂さんがぽつりと話し始めたのは、橙が毛づくろいをやめた後だった。

「子どもの頃、実家で猫を飼っていました。茶トラで、名前はモモでした。十五年、一緒にいました」

「猫、お好きなんですね」

「ええ。懐かれるのが当たり前だったんです、その頃は。呼べば来て、膝に乗って、一緒に寝て。猫というのはそういうものだと思っていました」

藤堂さんが橙に手を伸ばした。橙がすっと身を引き、彼の手が宙に止まる。

「大人になってから気づいたんですが、どうも野良猫には全然懐かれない。橙だけじゃなくて、今まで一度も」

「どうしてだと思いますか、ご自分では」