友達以上恋人未満

(楓side)
「……ったく、まじで何なんだよ」
由良と朝比奈さんがカフェに向かってから、もう二時間が経とうとしていた。
俺は自分の部屋のベッドに大の字になって、天井の木目を睨みつけていた。手元にあるスマホには、当然のように誰からも連絡は入っていない。
いつもなら、テストが終わった日の夜は由良とLINEで不毛なスタンプの送り合いをしたり、通話しながらネトゲのクエストを回したりしていたはずだ。それが俺たちの、当たり前の日常だった。
なのに、今の俺のタイムラインは、静まり返っている。
机の上に置き去りにされた、朝比奈さんからもらった炭酸飲料のボトルが目に入った。
ぬるくなったそれを一口飲むと、炭酸の刺激が喉をパチパチと刺す。
『中学のときさ、由良がこれ一気飲みして思いっきり吹き出したことあって――』
昼間の自分の発言を思い出して、俺は枕に顔をうずめて絶叫したくなった。
最悪だ。まじでダサい。朝比奈さんは俺のためにわざわざ購買で買ってきてくれたのに、俺はあいつの好意を、由良を引き止めるための道具に使った。由良に「俺たちの時間」を思い出させて、こっちを向かせるためのダシにしたんだ。
「朝比奈さん、泣きそうな顔してたな……」
朝比奈さんは良い奴だ。俺のくだらない話をいつも一生懸命聞いてくれるし、俺のためにサッカーの勉強までしてくれている。
でも、朝比奈さんが俺の隣に近づけば近づくほど、俺は反射的に由良を探してしまう。

中2の冬。あいつに泣きそうな顔で『好き』と言われたとき、俺の脳裏をよぎったのは「恐怖」だった。
付き合って、もし別れたら?
この、何でも話せて、一番素の自分でいられる「由良の隣」という場所が、世界で一番気まずい場所に変わってしまうかもしれない。そんなの耐えられない。だから俺は、あいつをフった。
『一番の友達でいよう』って、都合のいい言葉で縛りつけたんだ。

由良なら、フっても俺のそばにいてくれる。
俺を置いてどこにも行かない。
そう、高を括っていた。あいつの優しさに、あぐらをかいていたんだ。
「……友達、かよ」
スマホの画面を光らせ、登録名『由良』の文字を見つめる。
朝比奈さんと付き合えば、きっと普通に幸せな「高校生の恋愛」ができるんだろう。
だけど、もしその隣に由良がいなくなったら?
由良が俺以外の男と笑って、俺以外の男の「一番」になって、俺がその横を通り過ぎるだけの「ただの同級生」になったら――。
「……嫌だ。まじで無理」
口から出た本音は、自分でも引くほど身勝手で、嫉妬にまみれていた。
俺は由良を「友達」という安全な檻に閉じ込めて、自分だけ傷つかない場所にいただけだ。由良がその檻を壊して、朝比奈さんのために外へ出ていこうとする今になって、ようやく気づいた。
境界線の向こう側にいる由良を、誰にも渡したくない。
夜の静寂の中、ぬるくなった炭酸の泡が、静かに、だけど確実に弾け続けていた。