友達以上恋人未満

楓に昔の恥ずかしい話を暴露され、半ば強引に美奈ちゃんの腕を引いて教室を飛び出した私。
駅前のきらびやかなパンケーキカフェに逃げ込み、甘いイチゴのソースがかかった一皿を前にしても、フォークを持つ手は重いままだった。
「……ごめんね、美奈ちゃん。楓のやつ、いっつもあんな調子でデリカシーがなくて」
私は努めて明るく笑いながら、メープルシロップを手に取った。
だけど、向かい側に座る美奈ちゃんからの返事はない。
「美奈ちゃん……?」
顔を上げると、美奈ちゃんは小さくうつむいたまま、一度もフォークに手を触れていなかった。スカートの上で、短い爪が白くなるほどぎゅっと拳を握りしめている。
その肩が、微かに震えていた。
「……ううん、違うの。違うの、由良ちゃん」
ぽつり、とテーブルの上の白いお皿に、透明な雫が落ちて染みを作った。
美奈ちゃんが泣いている。私は慌ててカバンからティッシュを取り出そうとしたけれど、彼女が顔を上げた瞬間、その言葉に指が止まった。
「楓くんね、私と話してるとき……いつも、由良ちゃんのことばかり見てるの」
「え……」
「LINEで、私がおすすめの動画を送ったときも、次の日に『由良もこれ好きそう』って返ってきたり……。今日だって、私がせっかく買ってきた炭酸ジュースなのに、楓くん、私の顔じゃなくて、由良ちゃんの思い出話をして、すごく楽しそうに笑ってて……」
美奈ちゃんの大きな瞳から、大粒の涙が次々と溢れていく。
その涙は、悔しさと、悲しさと、そして私へのどうしようもない嫉妬に満ちていた。
「私じゃ、ダメなんだなって……。どんなに楓くんの『好きなもの』を調べて、由良ちゃんに教えてもらって近づこうとしても、2人が過ごしてきた時間には、私、逆立ちしたって勝てないんだなって、思っちゃったの……っ」
「そんなこと、ないよ! 美奈ちゃん、楓はただ不器用なだけで――」
「嘘だよ……っ!」
美奈ちゃんが、掠れた声で私の言葉を拒絶した。
「由良ちゃんは優しいから、そう言って私の恋を応援してくれる。でも、本当は……由良ちゃんだって、楓くんのことが好きなんでしょ……?」
心臓が、ドクンと音を立てて ―― 完全に、止まった気がした。
カフェの賑やかなBGMが、急に遠くなる。
美奈ちゃんの真っ直ぐな涙の目が、私の胸の奥に隠していた一番汚い嘘を、容赦なく暴き立てていた。
「私、気づいちゃったの……。あの雨の日の傘に、由良ちゃんの名前が書いてあったときから、ずっと……。あれは、由良ちゃんの文字じゃないよね? 楓くんが書いたんでしょ? 好きな人の文字くらいすぐに分かるよ……」
美奈ちゃんは涙を拭おうともせず、声を震わせる。
「手伝って」と言って私を巻き込んだ美奈ちゃん。
関係を壊したくなくて「友達」のフリをして身を引いた私。
一生懸命に恋をしている美奈ちゃんの前で、私は自分の「好き」から逃げるために、彼女の純粋な気持ちを利用して「物分かりの良い親友」を演じていただけだった。
「……ごめん」
喉の奥から、掠れた声がこぼれる。
美奈ちゃんを傷つけた罪悪感と、ついにバレてしまった自分の本音に、私はただ、お皿の上の甘いイチゴソースが滲んでいくのを、何も言えずに見つめることしかできなかった。