【長編版】おしえて方角男子!方向オンチの明日はどっち!?

 楽しかったフィールドワークから1週間。
 今日はいよいよ発表会だ。
 
「えー……私たちのグループは、風見中を中心とした地図作りに挑戦しました」
「作成にあたって勉強した主な地図記号は、スライドをご覧ください」
 
 私と北斗くんが壇上で発表するのに合わせて、飛鳥くんが舞台袖からタブレットを操作してスクリーンに地図を投影してくれる。
 
「この地図を作るきっかけとなったのは、グループメンバーのひとり、間中さんが転校生だったことです。僕らは彼女に風見市のことを知って欲しい、そして間中さんは自分と同じように風見市に初めてきた人のためにわかりやすい地図を作りたいと思い、このテーマを選びました」
 
 発表している北斗くんがちらりと私を見る。それに小さく頷き返して続きを繋いだ。
 
「実際に歩いてみることで、風見市の魅力や、近所の人との関わりなどから学べたことはたくさんあります」
 
 果樹園でリンゴをくれたおじさんを思い出す。
 こうした文章を作ってくれたのは西園寺くんだ。
 
「……以上が発表となります。質問はありますか」

 そして、この発表の構成や進行を取り仕切ってくれたのは東くんだ。
 てきぱきとした進行のおかげで、私たちの発表はスムーズに進んでいった。
 
「これにて、発表を終わります。ありがとうございました」
 
 壇上にみんなそろって礼をする。
 ひときわ大きく拍手が聞こえたのは気のせいではなかったようだ。
 
「うん、地図を作る発想は面白かったね。地元の人との交流や、きみたちオリジナルの動機づけもすごく良かった」
 
 このフィールドワークを主催した社会科の先生からも花丸をもらうことができて、私たちの発表は大成功をおさめたのであった。
 

「き、緊張したあ……!」
 
 緊張でガチガチに固まっていた身体から一気に力が抜けた。
 へなへなと机に突っ伏していると、隣で北斗くんが珍しく上を向いてふうと息をつく。
 
「間中の緊張が移った」
「むう、しょーがないじゃないっ」
「はいはい。みんなお疲れ様」
 
 東くんが笑顔でとりなしてくれる。
 その隣で何度も頷く西園寺くんの頬はまだ赤かった。西園寺くんも緊張してたみたい。
 
「せ、先生からあんなに褒められたグループはなかったので……良かったです……!」
「うんっ、みんなのおかげだよ」
「それじゃ、お疲れ様会やりたくない?」
 
 そう言い出したのは飛鳥くんだ。
 椅子を前後ろ逆にして座った飛鳥くんは、背もたれによりかかりながらパチンと指を鳴らした。
 
「お疲れ様会? 打ち上げみたいな?」
「そ。この奥にキャンプ場があるだろ? そこでバーベキューとかどうかなって」
「キャンプ場って……」
 
 そこで発表に使ったばかりの地図を引っ張り出す。
 地図記号はテントのマークだ。
 
「あった。駅の北側だね」
「今、ソロキャンとか流行ってるよね」
「飛鳥はここに行ったことあるのか?」
「うん。父さんに連れられて何度か。出来たばかりで設備もしっかりしてるし、道具も揃ってるから気楽にキャンプが楽しめる所だよ」
「へえ……!」
 
 楽しそう!
 西園寺くんがスマホでキャンプ場の公式サイトを調べて見せてくれた。
 トップページから飛び込んできたのは満点の星空だ。
 
「きれーい! いいなあ、行ってみたい!」
「星空が見えるテラス……だそうです」
「ロマンチックで美しいじゃないか」
「こりゃムード満点だ」
 
 ひゅう、と飛鳥くんが口笛を吹いた。
 
「うーん、ただ……」
 
 東くんが顔をしかめる。
 
「どうしたの?」
「星空を見たいなら泊まりになるだろう? ちゃんと家のひとに許可を取らないと。特に間中さんは女の子だからね、許可が出なかったら諦めて別のプランにしようか」
「そ、そうだね……」
 
 うう、東くん、どこまでいっても真面目だ。
 お母さん、許可してくれるかなあ……だめって言われたらどうしよう。
 いやいや、弱気になっちゃだめだ! だめって言われても説得あるのみ!
 
「お母さんお願いっ!」
 
 ぱんと勢いよく両手を合わせて拝む。
 
「……俺、間中のお母さんじゃないんだけど」
「……あ」
 
 先走りすぎました。
 つくづく北斗くんには恥ずかしいところばっかり見せてる気がする……!
 
 
 そして週末がやってきた。
 説得の成果はというと……。
 
「すっごーい、空気が美味しいっ!」
 
 見事、大成功!
 自然豊かなキャンプ場で深呼吸をする。
 やっほーと叫べば山びこが返ってきた。
 
「バーベキューも美味しいっ」
 
 じゅううと音をたてるグリルで、お肉と野菜がいい感じに焦げ目がついてる。
 
「デザートはいかがかな?」
 
 東くんがホットケーキミックスを持ってきてくれたおかげで、スイーツまで味わえちゃうなんて!
 きれいに焼けたホットケーキの上に果物やクリームをいい感じに乗せて、ちょっと巻いたら……クレープの出来上がりっ!
 ぱくっとひと口食べてみる。
 
「お、おいしい……!」
 
「それは良かった。間中さん、美味しそうに食べるから作りがいがあるよ」
 
 ふふっと笑いながら、東くんは2枚目のホットケーキを器用にひっくり返していた。
 
「東くん、お料理も上手なのね」
「焼くだけだから簡単さ。はいどうぞ」
 
 ひょいっとお皿に乗せられたホットケーキは、こんがりきつね色だ。

「メープルシロップやジャムもあるから、お好みでどうぞ」
「きゃああ、至れり尽くせり……!」
 
 ここは定番のメープルシロップ? それともジャム?
 ジャムはイチゴかな。それともリンゴ? いやいや、ここはアプリコットなんていいかもしれない!
 
「食べないなら貰うよ」
 
 そんな私の横からお皿をかっさらっていったのは、北斗くんだ。
 
「ああっ!」
「北斗……おとなげないぞ」
「同い年で大人も子どももないでしょ。いただきまーす」
 
 北斗くんはブルーベリージャムを乗せて、ぱくりとひと口食べてしまった。うう、ひと口が大きい!
 
「もう……北斗くんのばかあ」
 
 東くんにばかり作らせるのも不公平なので、次は私が焼こうとボウルにホットケーキミックスと牛乳を入れてかき混ぜる。
 すると、ふた口目を飲み込んだ北斗くんが隣に立った。
 
「お母さんお願い! はうまくいったんだ?」
「それ、まだ擦る? ……まあ、思ったよりあっさりね」
 
 あの日の夜、新しいゲーム機をおねだりするのと同じくらいの難易度で挑んだお願いは、意外なほどあっさり許可された。
 
『さっそくそんなに仲良くしてくれる友だちができたなんて、ほんとにラッキーね! 生徒会の子なら安心だし……むしろ未央が迷惑かけないか心配だわ。勝手にひとりであちこち行かないようにね』
 
 確かに心配はしてくれたけども、それは私が女子だからというより、しょっちゅう迷子になるから釘を刺したというほうがぴったりだった。
 うう、妙なところで信用があるのね、私。
 
「……ま、お母さんに信用されてる分だけ、きちんとするつもりだから」
「わかってる。だからこうして、間中がうっかり食べ過ぎないように俺が調節しておくから」
 
 そう言って、北斗くんはニヤリと笑った。
 
「……ほっぺにジャムつけたままじゃカッコよくないもん」
 
 これはハッタリだ。ホットケーキを取られたことへのちょっとした仕返し。
 さあどうだ、慌ててみなさい北斗くん!
 だけど、予想外なことに、北斗くんは何も慌てずにしらけた瞳でこちらを見た。
 
「そっちこそ、鼻の頭にクリームついたままだけどね」
「うそっ!?」
 
 やだ、恥ずかしい!
 慌ててティッシュで鼻の頭を拭うけど……なんにもついていなかった。
 
「……さては北斗くん、だましたわね?」
「そっちのイタズラに付き合ってあげただけだよ」
 
 な、なんですってえ!
 私のハッタリも見抜かれていたなんて……北斗くん、恐ろしい子……!

 そんないつものやりとりも、学校以外だとなんだか新鮮だ。
 だんだんと日が沈んでいく。
 オレンジ色に染まる空を見ていると、フィールドワークの日の思い出話が止まらない。
 
「あの日の夜は、なかなか寝られなくてね。一日中歩いてくたくたなはずなのに、なぜか目が冴えてしまって」
「わかるわかる。楽しかったもんね」
「そ、そうだったんですか……ボクはお風呂で寝そうになりました」
「あっぶな! 大丈夫だったか?」
「っていうか、今も寝そうじゃない?」
 
 北斗くんの言うとおり、西園寺くんの目はとろんとしている。
 
「あー、こりゃおねむだなあ」
「花火とか買っておいたけど、また次回だな」
 
 飛鳥くんがこつんと頭を突っつくけれど、西園寺くんはむにゃむにゃと何か言うだけだ。
 そのうちこくりこくりと船を漕ぎ出してしまった。

「夕輝、めったに校外で遊ばないから張り切ってたんだよ。その反動だな」
「そうそう、西園寺の箱入り息子だもんな。それを外に引っ張りだしたのは未央ちゃんのお手柄だぜ?」
「わ、私っ?」
「それには同意。間中がいなきゃ、キャンプ場に来るなんて言わなかっただろうし」
「そうなんだ……」
 
 頭をふわふわ揺らしている西園寺くんの寝顔を横目でみる。まつ毛が長くて羨ましい。
 
「間中さんは僕たちによくお礼を言ってくれるけど、僕たちも同じくらい感謝してるのさ」
「そうだねー。だから……」
 
 飛鳥くんがストローをくるりとなぞって遊ぶ。そしておもむろに東くんを見てぱちりとウィンクした。
 
 ん? 何かの合図かな?
 
 東くんも何か察したらしく軽く頷いた。
 
「さあてと。夕輝の寝顔見てたらオレも眠くなってきちゃった。一足先に休ませてもらおっかな」
 
 ふわあと大きなあくびをした飛鳥くんは、西園寺くんの肩をつんつんとつっついた。
 
「おーい夕輝ー、寝るならベッドで寝ろー」
「僕も手伝うよ」
 
 東くんも席を立つ。ふたりで夕輝くんを寝室まで連れていくみたいだ。
 
「あ、俺も手伝う」
「私も」
 
 北斗くんが椅子を引いたので私もつられて腰を上げた。
 しかし、飛鳥くんは人差し指を唇にあてて「しぃ」と言う。
 
「いいからいいから。オレと朝日で手は足りてる」
「軽く食器だけ片付けておいてくれたまえよ」
 
 ひらりと手を振った飛鳥くんは、夕輝くんの腕を取って立たせると、引きずるようにして連れていった。
 
「おやすみ」
「おやすみなさい」
 
 にこりとあいさつしてくれた東くんに手を振って返す。
 
「……あいつら、変な気使って」
「え、何が?」
「別に。ほら、食器洗おう」
 
 そう言うと、北斗くんは大皿を持ってキッチンに向かってしまった。
 私も小皿をトレイに乗せて後を追う。
 
「ねえねえ、今のってどういうこと?」
 
 お皿に残っていた油分を新聞紙で拭いながら聞くと、北斗くんは「男同士の秘密」と逃げてしまった。
 
「むう……ずるいっ」
 
 じたばたと足踏みすると、横からお皿をひょいと取られる。
 
「皿、落とすよ」
「もう……北斗くんたらいっつもクールなんだからっ」
「そりゃどうも」
 
 スポンジでお皿を洗いつつ、北斗くんはちらっと窓を見た。
 
「なあに? 外に何かいるの?」
「オオカミ」
「うそっ!」
 
 ぎよっとして縮こまると、北斗くんはすかさず「ウソ」と言ってお皿をすすいだ。
 
「なによもう……」
 
 ほっとして脱力してしまう。もう、北斗くんに振り回されっぱなしだ。
 そんな私を見ても、顔色ひとつ変えずに北斗くんは次のお皿を洗っている。
 
「オオカミはいないけど、そろそろいいものが見られるから」
「いいものって?」
「それはお楽しみ。さ、手を動かして」
「はーい……」
 
 いいものってなんだろう?
 わくわくしながら北斗くんのお手伝いをしていると、あっという間に洗い物は終わってしまった。

「間中、お疲れ。こっち来て」
 
 北斗くんがテラスへ繋がるドアを開けた。それに続いてテラスへ出てみると……。
 
「うわあっ……」
 
 そこには、満天の星空が広がっていた。
 黒一色なのにどこか奥行きのある夜空に、小さな星が数え切れないほどにきらきらと瞬いている。
 
「さっき北斗くんは窓からこれを確認してたんだね。日が沈まないと星が見えないから……」
「そういうこと。ていうか、間中がテラスで星が見たいって言ったからこのキャンプ場に来たんだろ? 忘れてるかと思ってびっくりしたよ」
 
 北斗くんは小さなランタンをテラスの手すりに置いた。ソーラーパネルで充電できる便利グッズだ。
 いくら星空がきれいとはいえ、真っ暗だと怖くなっちゃうけど、このくらい小さな明かりがあるとほっとする。
 
「忘れてたわけじゃないよ。みんなと過ごす時間が楽しくって、あっという間だったから」
「そう。俺も楽しかった」
「……え」
 
 珍しい。北斗くんが素直だ。
 そう口に出しかけて、慌てて引っ込める。
 ここでご機嫌ななめになったらやだもんね。
 ふたり並んで夜空を見上げる。
 明るくで目立つ星から、よーく目を凝らさないとわからない小さな星まで、見ている私の目にも落ちてきそうな星がたくさんだ。
 
「間中は、星座詳しい?」
「星占いとかのメジャーなものなら知ってるけど……こうして本物の星空を見るとよくわからなくなっちゃう。本みたいに、星と星がつながってないもの」
 
 どの星と星を結んで星座にしていいか、これだけ星が多いと全然わからない。
 ぽかんと口を開けながら、指でなんとなくなぞっているだけだ。
 
「北斗くんは、どう? 星座とか、わかる?」
「北極星と北斗七星はわかる」
「あ、おおぐま座とかこぐま座とかの? しっぽだっけ?」
「そう。北の目印。この名前だから、気になって覚えたんだ」
「そうだね。“北斗”七星だもんね」
 
 ふふっと笑って星を眺める。
 
「間中、北斗の“斗”って、何のことか知ってる?」
「ううん」
「柄杓のことなんだって。ほら、茶道とかでお湯を掬うのに使うアレ」
 
 着物を着たひとが背筋を伸ばして、釜の前に正座しているイメージが浮かぶ。そうか、あれが柄杓……つまり「斗」なのか。
 
「つまり、北斗七星は夜空の星をすくう柄杓ってこと? なんだかロマンチック!」
「そういうもの?」
 
 私がこんなに力説したのに、北斗くんはピンときていないらしい。
 そのまま北斗くんは夜空の星を柄杓の形に指し示す。
 
「あれが北斗七星。柄杓の水を汲むところ……コップみたいな形をしているところの、先端ふたつぶんの長さを5倍伸ばすんだ。そうすると……北極星が見つかる」
「ええと……いち、に、さん……」
 
 人差し指と親指で長さを確かめつつ、ふたりで一緒に星の距離を確かめていく。
 
「よん……ご。あれが北極星?」
 
 指さした先には、すごく明るいわけではないけれど、ほんのり光る小さな星があった。
 
「そう。他の星は季節や時間によって動いていくけれど、北極星だけは動かないんだ。特別な星だよ。ずっと変わらずにそこにある。だから、昔から旅人たちは目印にしてきた」
「北極星だけ、特別……」
 
 そう聞いて、改めて北極星を見つめる。
 何も言わないけれど、静かにそこにあり続ける。迷わないためのお守りの星。
 
「……なんだか、北斗くんって感じ」
「え?
「北極星を見つけるためには、星の長さを5倍する必要があるんでしょ? それが私たち5人のことを言ってるみたいで、なんだか嬉しい」
 
 私たち5人がいれば……東西南北とど真ん中があれば、迷子にならずにいられる。
 
「北斗くん、はじめて会った時に私がニワトリみたいって言ったでしょ?」
「言ったけど……、まだ根に持ってるの」
「根には持たないけど擦る。だからね、私が風見鶏みたいにふらふらしてても、北斗くんだけはどんなことがあっても見つけられるってことだよね!」
「はあ?」
 
 北斗くんは呆気にとられてるけど、これは我ながらいいこと言ってる! The青春って感じだよね?
 
「ふふ、北斗くんがいれば、迷子も卒業できそう。ずっと一緒にいられればいいのに」
 
 るんるん気分だったけど、北斗くんは黙ってしまった。
 あれ、何か変なこと言っちゃった?
 
「……それ、素で言ってる? 恥ずかしいんだけど」
 
 そんなに恥ずかしいこと言ったっけ?
 
「ずっと一緒、とか、俺さえいればとか……」
「え! えっと、それは……」
 
 うわわ、どうしよう。確かによく考えたら恥ずかしいかも!
 そうだよね、これって深読みしたら、北斗くんだけ見つめてるってことになっちゃうよね!?
 ひええ、顔が熱い! 顔から火が出るってこういうことなの? 今なら顔でバーベキューできそうかも!?
 
「ご、ごめんね、変なこと言って! 今のナシ!」
「ナシ?」
「そう、ナシ!」
 
 ぶんぶんと勢いよく顔の前で手を振る。
 そうしたら勢い余って、手すりに置いていたランタンに手が当たってしまった。
 
「あっ!」
 
 しまった、落としちゃう……!
 あわてて手を伸ばす。
 それは北斗くんも一緒だった。
 気がついた時には北斗くんの顔が目の前にあって。
 あ、ぶつかる。

 とっさに目をつぶった次の瞬間、感じたのは痛みじゃなくて……。

「……え?」

 今、当たったのって、もしかして。
 はっと目を開ける。
 
「ほ、北斗くん……今の?」
 
 ぶつかったのは、おでこじゃない。だって、熱いのは——。
 
 そっと唇に触れた。
 そのままドキドキする鼓動を持て余して固まっていると、北斗くんがランタンを拾ってくれた。
 落としちゃってごめんなさいという気持ちと、今ひょっとしてキスしちゃった? という動揺がまぜこぜになって、ほっぺの筋肉がひくひくしている。

「間中、ほんと表情がころころ変わるよね。見てて飽きない」
「え……!?」
 
 北斗くんはランタンをかざす。強すぎない明かりだけど、お互いの表情ははっきりわかる。
 
「くるくる回る風見鶏に振り回されるのも、悪くないね」
 
 北斗くんがニッと笑った。
 
 ぶわり。
 胸の中に風が巻き起こる音がした。
 
 風見鶏なんてここにはないのに、耳の奥だけ風見市駅のロータリーにいるみたいに、カラカラカラと回る音が響いて止まらない。
 
「ほ、北斗くんたらずるいよ……!」
「なんで?」
「ど、どんなに私が振り回したって、北極星は動かないくせに!」
「まあね。でも、どんなに迷ったって、間中は北極星だけは見つけるんだろ? 楽しみにしてるから」
 
 そう言って不敵に笑った北斗くんの後ろに北極星が瞬いている。
 くるくる回り続ける風見鶏がどの方向を向いて止まるのか……その答えを知る日は、遠くなさそうだった。