【長編版】おしえて方角男子!方向オンチの明日はどっち!?

「えー、今日から一緒に勉強する新しい仲間です。間中さん、自己紹介を」
「は、はじめまして。間中未央です。仲良くしてくださいっ」
 
 あれから案内された職員室で、無事に担任の先生に挨拶も済ませた。
 そこで北斗くんたちとはお別れになってしまったのは寂しいけど、今はセンチメンタルになってる場合じゃない。
 そう、ついにこの時がやってきた。クラスメイトへの紹介だ。
 
 教壇に上がった先生の隣で、私はカチンコチンに固まっていた。
 教室中の視線が自分に集まっている。
 ひとりひとりの顔を見ていられなくなって、逃げるようにお辞儀をした。
 
 ゴツッ

「いたっ」

 おでこがじんじんする。
 し、しまった! 勢いがよすぎて教卓に頭ぶつけた……!
 痛い。熱い。
 それよりもっと……恥ずかしいっ!

 しーんと静まり返る教室。
 顔をあげるタイミングがわからなくなって、お辞儀をしたまま固まってしまう。
 う、うそ。
 絶対引かれてる。
 転校初日からやらかすなんて、私のバカバカばかぁ!
 
 そこに、ぱんっ、と大きな音が響いた。
 びっくりして顔をあげる。
 すると、大きな目を丸くした女の子が、慌ててこっちに駆け寄ってくるところだった。

「大丈夫!?」
「えっ……」

 心配してくれたんだ。
 優しい……!

 じーんと感動して、今度は目の奥が熱くなる。
 たたた、と教卓に上がってきたその子はタオルハンカチを取り出すと、ぶつけたおでこにそっとあててくれた。
 ふわふわの生地がやわらかくてほっとする。

「だ……大丈夫。ありがとう」
「よかった。私、日向(ひゅうが)佳奈(かな)。学級委員長なの。よろしくね」
 
 にっこり笑ってみせたその女の子は、同い年なのにとてもお姉さんに見えた。
 
「よ、よろしく。そのハンカチ、すごくふわふわね」
「そう? ありがとう。間中さん、席に案内するね」
 
 日向さんは私の手を引いて教壇を下りてくれる。
 机と机の間を通る時に、他の子が「大丈夫ー?」とか「すっげー音したな」とか、思い思いに声をかけてくれた。
 恥ずかしいけど、なんだかピリピリしていた空気が柔らかくなった気がする。
 
 これが「災い転じて福となす」ってことなのかも!
 
「間中さんの席はここよ」
 
 日向さんに案内された席につく。
 
「私は前の席なの。わからないことがあったらなんでも聞いてね」
「ありがとう!」
 
 よかったあ。すごく親切な子と知り合いになれたみたい。
 るんるん気分のまま、隣の子に「よろしくね」とあいさつしようとして……固まった。
 
「方向オンチだけど、頭突きパワーはずいぶん強いじゃん」
 
 ずいぶんと失礼なことを言ってきた男の子は……。
 
「ほ、北斗くん!?」
「覚えてた? 教卓に頭突きして忘れたかと思ったよ」
「忘れるわけないよ! だってさっきまで一緒にいたじゃない!」
 
 もう、私がいくら方向オンチだからって、忘れっぽいわけじゃないんだからね!
 
「なになに、北斗くんと間中さん、知り合いだったの?」
 
 自分の席から振り向いた日向さんが話しかけてくる。
 
「ええと、話せば長くなると言いますか……」
 
 苦笑いしながらなんて答えようかと考えていると、日向さんだけじゃなくて、周りの席の子――ううん、クラスみんながじっとこっちを見ていた。
 
 わあっ、みんなこっち見すぎ!
 ど、どうしよう!?
 ちらりと北斗くんを見る。すると、北斗くんはふう、とため息をつきつつも立ち上がった。

「間中は、羅針盤の新メンバーとして生徒会に入ることになったんだ」
「えっ……!?」
 
 ざわ、と教室が揺れる。
 びっくりしたのは私だけじゃなかったみたい。

「生徒会に!?」
「間中さんってすっごーい!」
「じゃあ成績抜群なんだ!」
「まさか特待生とか!?」

 どんどん噂が噂を呼んで、私がスーパーエリート中学生みたいになってる。
 全っ然ちがう!
 成績は普通だし、特技は極度の方向オンチなんだから!
 そう言いたくても、この盛り上がりを前にしてそんな勇気は出てこなかった。

 代わりに隣の北斗くんの腕をつかんで揺さぶることしかできない。

「ちょっと! なに勝手なこと言ってるの! 私、まだ入るなんて言ってないし、そもそも生徒会って選挙とかあるでしょ!?」
「今は任期の途中だから選挙はないよ。加入条件はメンバーによる推薦と承認。南雲のあの調子じゃ承認されたも同然でしょ」
「だからって……!」

 生徒会メンバーなんてすごい集団に入って、やっていける自信なんてないよ。
 悪目立ちして嫌われたらどうしようっ!

「ああほら、みんな静かに。北斗も間中さんも席に着きなさい」

 担任の先生が声をかけてくれてざわめきが落ち着いてくる。
 そうだ、先生に相談すれば——。

「先生、私、生徒会なんて……」
「ああ、羅針盤ね。うん、いい課外活動にもなるだろうしやってみなさい。北斗が他人を推薦するなんてめったにないぞ」
「え、えええっ!?」

 そんなのでいいの!? 生徒会ってもっとこう……大変なんじゃないの!?

 そんな心の声が漏れていたのか、先生は苦笑いしている。

「次の選挙まで残り数か月だからだよ。学校に慣れるいい機会だし、何より間中さんの名前は今のメンバーたちとぴったりだからなあ」

 せ、先生までそんなことを……。
 私の名前がこんなことを引き起こすとは、お父さんもお母さんもびっくりだ。

「間中さん、せっかくだからやってみれば?」

 そこで声をかけてくれたのは日向さんだ。
 わくわくした目で私を見つめている。

「い、いいの? だって、転校生がいきなり生徒会入りって……正直、イヤじゃない?」
「まさか! 生徒会メンバーは生徒の投票で選ばれているから、その北斗くんの推薦なら納得するよ」
「そ、そうなの?」
「そう!」

 元気よく答えてくれた日向さんに、周りの子たちも「いいんじゃない?」と同調している。
 それでいいんだ。みんな、おおらかだなあ……。
 
 「学級委員長の日向の言うとおりだ。何事も経験だよ」

 先生の穏やかな笑顔と、日向さんのきらきらしたまなざし。
 こ、これは……覚悟決めるしかないってこと~!?
 
「わ、わかりました。やってみます!」
 
 そう言うと、ぶわりと拍手が沸き起こった。
 
「おもしろそうじゃーん! 間中さん、よろしくー」
「東西南北の真ん中かあ。センターなんてかっこいいよね」
「なんだかマンガみたい! ねえねえ間中さん、取材させて! あなたをモデルに一作描くわ!」
 
 ま、マンガ? 取材ってなに?

「ほ、北斗くん、生徒会ってこんな注目されるものなの……?」
 
 今の私、眉が八の字になってて情けない顔してる。
 だけど、北斗くんはちっとも悪びれることなくこう言ったのだ。
 
「良かったじゃん。これで一気に有名人になったから、迷子になれる暇がないんじゃない?」

 な、な、なにい~!?
 そんなナナメ上の考え方ってありなの!?

 ああもう、これから私の学校生活、どうなっちゃうんだろう!!