「ようこそ、風見中へ! 生徒を代表して歓迎するよ」
眼鏡をきらりと光らせ、ハキハキと迎えてくれたのは生徒会長の東くんだ。
うわあ、やっぱり生徒会長ってすごいひとなんだ……!
ここは私も同じくらいきちんとあいさつしないと!
ぴんと背筋を伸ばして胸を張る。
「こ、こちらこそよろしくお願いします。私、間中未央っていいます!」
すると——なぜか、無言。
え、あれ? スベった? っていうか、ウケ狙いのこと言ってないよね?
「あ、あの……?」
静けさが痛くて目が泳いでしまう。
その静寂を壊してくれたのは、サイドの編み込みが特徴的な、タレ目の男の子だった。
ぱんぱんと元気な拍手をしながら、ひゅーうと口笛までつけてくれる景気の良さだ。
「おっどろきー! 羅針盤にぴったりすぎる名前だね」
「ら、羅針盤って……」
そういえば、さっきもその名前を聞いた気がする。
ええと、羅針盤って方角を示す道具だっけ?
「羅針盤っていうのはコレだね」
そう言って、その男の子は腕章を私に見せてくれた。
東西南北の文字の横に、イメージしていたものと同じものが刺繍されている。
丸の中に四方向に向かう矢印。それぞれの先にはN、S、W、Eと方角を表すアルファベットがついている。
「オレは南雲飛鳥。ほら、南が入ってるだろう? それと同じように……」
南雲くんが他の面々を見ると、彼らも察したように腕章を見せてくれた。
「僕は東だね。読みはあずまだけれど」
「西……の西園寺です」
「俺のことは知ってるでしょ。北の北斗だよ」
東西南北。みんな、それぞれ方角が名前に入ってるのか!
「そこにやってきたのが、ドまんなかの間中さんってこと。だからびっくりしたんだよ」
「そ、そうなんだ……」
確かに……私の名前は間中未央。間の、真ん中の、中央。
羅針盤でいうなら、矢印のど真ん中ってことか。
「わかってくれた?」
「は、はいっ」
こくりと頷く。
「つ、ま、り! オレたちが出会ったのは運命だよね?」
「は、はいっ! ……あれ?」
思わずノリで頷いちゃったけど、ちょっと待って。なんか違う気がするよ!?
「未央ちゃんたら素直なんだから……キュートすぎてオレ、どうにかなっちゃいそう!」
「きゃあ!?」
そう言うなり、南雲くんががばっと抱き着いてきた。
えっえっ、どういうこと~!?
「こら飛鳥、ステイ!」
抱き着いてきたのと同じくらいのスピードで南雲くんが離れた。
ぎよっとして見れば、東くんが南雲くんを引きはがして首根っこを掴んでいる。
「ごめんね、間中さん。飛鳥のヤツ、どうも女の子に弱くて……」
「は、はあ」
「でも、羅針盤にふさわしいと思ったのは僕も同じだな。きみさえ良ければ、歓迎するよ」
「え、ええと、考えさせてください……?」
東くんまでそんなことを言ってくるなんて。
これってどういうことなんだろ?
私の頭の上にクエスチョンマークがぴょこぴょこしているのが見えたのか、東くんは「この話はまた今度にしよう」と言ってくれた。
そして、すっと目を細めると南雲くんに向けて腕を伸ばして手のひらを向ける。
「近い。もう少し離れたまえ」
「お?」
目を丸くした飛鳥くんが後ろに下がる。
「まだ」
「まだ?」
そんなやりとりを繰り返して、飛鳥くんをすっかり遠ざけたところで東くんはストップをかけた。
3mくらいは離れてしまっただろうか。
「飛鳥、いいかい。今から間中さんを職員室まで案内するけど、彼女との距離はそのまま。少なくとも半径3m以内に近づかないように」
「ええっ!? 遠くない!? オレを遠ざけてどうするつもり?」
「さ、間中さん、職員室まで案内しよう。ついてきたまえ」
「人の話聞いてる!?」
南雲くんの話を聞いているのかいないのか、東くんは私ににっこりと話しかけるとすたすた歩きだしてしまった。
「え、ええと?」
きょろきょろと目を泳がせると、興味がなさそうに壁に寄りかかっていた北斗くんがひょいと体を起こしてそれに続く。
「南雲のチャラいのはいつものことだし、ほっときな。行くよ」
えっと……いいのかな?
あれ、っていうか……もうひとり男の子、いたよね?
探していると、北斗くんが寄りかかっていた壁の近くにある柱から、体を半分だけのぞかせてこちらを見ている男の子と目が合う。
「ええっと……西園寺くん?」
こくりと頷いてくれる。
「私、このまま東くんについていっていいのかな?」
もうひとつこくり。
「ありがとう!」
西園寺くんって、恥ずかしがりやさんなのかな?
深くは追及せず、小走りで東くんについていくことにした。
ひとまず、目指すは昇降口だ。
その途中で目に飛び込んできた花壇に思わず足が止まる。
「わあ……っ!」
色とりどりの花が咲き乱れてて、お花の宝石箱みたい!
駅から来る途中に通ったお花屋さんの花もきれいだったけど、ここの花壇も同じくらいにきれい。
スカートの裾をさっと巻き込んでしゃがみこむ。
お花の甘い香りがふんわり鼻先をくすぐった。
そこにひらひらと何かが落ちてくる。
花びら? ううん、蝶々だ!
二匹の蝶々が、重なり合うようにして花壇を飛び回る。
まるで私みたいにお花に感激して飛び跳ねてるみたいだ。
「転校初日からいいもの見ちゃったなあ……」
童謡さながらののどかな風景にほんわかと和む。
……ん、待って。
大事なことを忘れてる。
「校内案内ッッ!」
そうだよ、東くんが職員室まで案内してくれるって言ったのに!
がばっと立ち上がって振り向く。
すると真後ろに立っていた北斗くんに激突しかけて、体がのけぞった。
「う、わあっ!」
バランスを取ろうとぶんぶん回していた腕をぱしっと取られて引っ張られる。
「あっぶな……」
転ばずに済んだのは良かったけど、北斗くんは海よりもふかーくため息をついていた。
「……ごめんなさい」
「あんたが迷子になる理由って、方向オンチなだけじゃなさそうだね」
そう……これも私が迷子のエキスパートと呼ばれる一因。あっちこっちに興味が向いて、本来の行き先を見失ってしまうこと。
まっすぐ進めば着くところを、途中のお店とかに気を取られて進むべき方角が変わってしまう。
このクセを直さないと、一生迷子な気がする……!
「まったく、そんなところも風見鶏と一緒だよね。風が吹くとくるくる回って飛んでいきそうだ」
風見鶏……って、駅のロータリーにあったニワトリのこと?
やっぱり北斗くんにとって私はニワトリなのか……。
自分が情けなくて、鼻の奥がツンと熱くなる。
う、こんなところで泣くなんてだめだ。
すると、北斗くんは私の手をぐっと握って歩き出した。
「えっ」
「あんたが危なかっしいのはよーくわかった。それなら、こうすれば迷わないんじゃない?」
「ええっ!?」
こうすればって……ずっと手を繋いでるってこと?
びっくりしていると、反対側の手までがぎゅっと握られる。
「みーおちゃん。片手がお留守だよ。良ければオレにエスコートさせてほしいな」
「南雲くん!」
あれ、半径3mの約束はどこに?
そう聞きたかったけど、南雲くんは握った手を掲げてうっとりしているから、ツッコむのもはばかられた。
「南雲くん、なんて他人行儀な呼び方はやめよっか。飛鳥って名前で呼んでよ。オレと未央ちゃんの仲だろ?」
ど、どんな仲ですか。でも、せっかく仲良くしてくれているのにつっけんどんな態度を取るのは申し訳ないな。
「じゃあ……飛鳥くん?」
「ん、オッケー♡」
わわ、語尾にハートが見えた。イケメンの威力、恐るべし……!
そこに戻ってきたのは東くんだ。
「すまないっ、置いていってしまった」
「う、ううん! 私がよそ見してたからいけないの。こちらこそごめんなさいっ」
「だいじょーぶだいじょーぶ。未央ちゃんはオレらの真ん中にいればいいよ。そうしたら迷子にならなくてすむでしょ?」
「飛鳥……お前、いつのまに」
「コイツがおとなしく3m離れたままで済むわけないでしょ」
「それもそうなんだが……」
「ねえ、ふたりの中でオレの評価どうなってるの」
本人を前にして、やれやれと頭を抱える東くんと北斗くん。これが彼らの日常みたいだ。
「だけど、お前だけは裏切らないって信じてるからなー! 夕輝!」
そこで声を張り上げた飛鳥くんがひょいと振り向く。それこそ3m離れたところに立っていた西園寺くんが、ぴゃっと声を上げて垂直に跳ねた。
……っていうか、遠っ!
「……仕方ないか。では改めて」
ふう、と息をついた東くんが眼鏡をカチャリと鳴らしてかけ直した。
「僕が前、左右を雪弥と飛鳥。そして後ろを夕輝がカバー。これでどうかな? 間中さん」
「ど、どうって……」
前後左右にイケメンって、どんな包囲網!?
ボディーガードじゃないんだからあ!
そんな私の叫びをよそに、改めて歩き出した4人の男子。
職員室に着く頃までに、心臓が破裂しませんように……!
眼鏡をきらりと光らせ、ハキハキと迎えてくれたのは生徒会長の東くんだ。
うわあ、やっぱり生徒会長ってすごいひとなんだ……!
ここは私も同じくらいきちんとあいさつしないと!
ぴんと背筋を伸ばして胸を張る。
「こ、こちらこそよろしくお願いします。私、間中未央っていいます!」
すると——なぜか、無言。
え、あれ? スベった? っていうか、ウケ狙いのこと言ってないよね?
「あ、あの……?」
静けさが痛くて目が泳いでしまう。
その静寂を壊してくれたのは、サイドの編み込みが特徴的な、タレ目の男の子だった。
ぱんぱんと元気な拍手をしながら、ひゅーうと口笛までつけてくれる景気の良さだ。
「おっどろきー! 羅針盤にぴったりすぎる名前だね」
「ら、羅針盤って……」
そういえば、さっきもその名前を聞いた気がする。
ええと、羅針盤って方角を示す道具だっけ?
「羅針盤っていうのはコレだね」
そう言って、その男の子は腕章を私に見せてくれた。
東西南北の文字の横に、イメージしていたものと同じものが刺繍されている。
丸の中に四方向に向かう矢印。それぞれの先にはN、S、W、Eと方角を表すアルファベットがついている。
「オレは南雲飛鳥。ほら、南が入ってるだろう? それと同じように……」
南雲くんが他の面々を見ると、彼らも察したように腕章を見せてくれた。
「僕は東だね。読みはあずまだけれど」
「西……の西園寺です」
「俺のことは知ってるでしょ。北の北斗だよ」
東西南北。みんな、それぞれ方角が名前に入ってるのか!
「そこにやってきたのが、ドまんなかの間中さんってこと。だからびっくりしたんだよ」
「そ、そうなんだ……」
確かに……私の名前は間中未央。間の、真ん中の、中央。
羅針盤でいうなら、矢印のど真ん中ってことか。
「わかってくれた?」
「は、はいっ」
こくりと頷く。
「つ、ま、り! オレたちが出会ったのは運命だよね?」
「は、はいっ! ……あれ?」
思わずノリで頷いちゃったけど、ちょっと待って。なんか違う気がするよ!?
「未央ちゃんたら素直なんだから……キュートすぎてオレ、どうにかなっちゃいそう!」
「きゃあ!?」
そう言うなり、南雲くんががばっと抱き着いてきた。
えっえっ、どういうこと~!?
「こら飛鳥、ステイ!」
抱き着いてきたのと同じくらいのスピードで南雲くんが離れた。
ぎよっとして見れば、東くんが南雲くんを引きはがして首根っこを掴んでいる。
「ごめんね、間中さん。飛鳥のヤツ、どうも女の子に弱くて……」
「は、はあ」
「でも、羅針盤にふさわしいと思ったのは僕も同じだな。きみさえ良ければ、歓迎するよ」
「え、ええと、考えさせてください……?」
東くんまでそんなことを言ってくるなんて。
これってどういうことなんだろ?
私の頭の上にクエスチョンマークがぴょこぴょこしているのが見えたのか、東くんは「この話はまた今度にしよう」と言ってくれた。
そして、すっと目を細めると南雲くんに向けて腕を伸ばして手のひらを向ける。
「近い。もう少し離れたまえ」
「お?」
目を丸くした飛鳥くんが後ろに下がる。
「まだ」
「まだ?」
そんなやりとりを繰り返して、飛鳥くんをすっかり遠ざけたところで東くんはストップをかけた。
3mくらいは離れてしまっただろうか。
「飛鳥、いいかい。今から間中さんを職員室まで案内するけど、彼女との距離はそのまま。少なくとも半径3m以内に近づかないように」
「ええっ!? 遠くない!? オレを遠ざけてどうするつもり?」
「さ、間中さん、職員室まで案内しよう。ついてきたまえ」
「人の話聞いてる!?」
南雲くんの話を聞いているのかいないのか、東くんは私ににっこりと話しかけるとすたすた歩きだしてしまった。
「え、ええと?」
きょろきょろと目を泳がせると、興味がなさそうに壁に寄りかかっていた北斗くんがひょいと体を起こしてそれに続く。
「南雲のチャラいのはいつものことだし、ほっときな。行くよ」
えっと……いいのかな?
あれ、っていうか……もうひとり男の子、いたよね?
探していると、北斗くんが寄りかかっていた壁の近くにある柱から、体を半分だけのぞかせてこちらを見ている男の子と目が合う。
「ええっと……西園寺くん?」
こくりと頷いてくれる。
「私、このまま東くんについていっていいのかな?」
もうひとつこくり。
「ありがとう!」
西園寺くんって、恥ずかしがりやさんなのかな?
深くは追及せず、小走りで東くんについていくことにした。
ひとまず、目指すは昇降口だ。
その途中で目に飛び込んできた花壇に思わず足が止まる。
「わあ……っ!」
色とりどりの花が咲き乱れてて、お花の宝石箱みたい!
駅から来る途中に通ったお花屋さんの花もきれいだったけど、ここの花壇も同じくらいにきれい。
スカートの裾をさっと巻き込んでしゃがみこむ。
お花の甘い香りがふんわり鼻先をくすぐった。
そこにひらひらと何かが落ちてくる。
花びら? ううん、蝶々だ!
二匹の蝶々が、重なり合うようにして花壇を飛び回る。
まるで私みたいにお花に感激して飛び跳ねてるみたいだ。
「転校初日からいいもの見ちゃったなあ……」
童謡さながらののどかな風景にほんわかと和む。
……ん、待って。
大事なことを忘れてる。
「校内案内ッッ!」
そうだよ、東くんが職員室まで案内してくれるって言ったのに!
がばっと立ち上がって振り向く。
すると真後ろに立っていた北斗くんに激突しかけて、体がのけぞった。
「う、わあっ!」
バランスを取ろうとぶんぶん回していた腕をぱしっと取られて引っ張られる。
「あっぶな……」
転ばずに済んだのは良かったけど、北斗くんは海よりもふかーくため息をついていた。
「……ごめんなさい」
「あんたが迷子になる理由って、方向オンチなだけじゃなさそうだね」
そう……これも私が迷子のエキスパートと呼ばれる一因。あっちこっちに興味が向いて、本来の行き先を見失ってしまうこと。
まっすぐ進めば着くところを、途中のお店とかに気を取られて進むべき方角が変わってしまう。
このクセを直さないと、一生迷子な気がする……!
「まったく、そんなところも風見鶏と一緒だよね。風が吹くとくるくる回って飛んでいきそうだ」
風見鶏……って、駅のロータリーにあったニワトリのこと?
やっぱり北斗くんにとって私はニワトリなのか……。
自分が情けなくて、鼻の奥がツンと熱くなる。
う、こんなところで泣くなんてだめだ。
すると、北斗くんは私の手をぐっと握って歩き出した。
「えっ」
「あんたが危なかっしいのはよーくわかった。それなら、こうすれば迷わないんじゃない?」
「ええっ!?」
こうすればって……ずっと手を繋いでるってこと?
びっくりしていると、反対側の手までがぎゅっと握られる。
「みーおちゃん。片手がお留守だよ。良ければオレにエスコートさせてほしいな」
「南雲くん!」
あれ、半径3mの約束はどこに?
そう聞きたかったけど、南雲くんは握った手を掲げてうっとりしているから、ツッコむのもはばかられた。
「南雲くん、なんて他人行儀な呼び方はやめよっか。飛鳥って名前で呼んでよ。オレと未央ちゃんの仲だろ?」
ど、どんな仲ですか。でも、せっかく仲良くしてくれているのにつっけんどんな態度を取るのは申し訳ないな。
「じゃあ……飛鳥くん?」
「ん、オッケー♡」
わわ、語尾にハートが見えた。イケメンの威力、恐るべし……!
そこに戻ってきたのは東くんだ。
「すまないっ、置いていってしまった」
「う、ううん! 私がよそ見してたからいけないの。こちらこそごめんなさいっ」
「だいじょーぶだいじょーぶ。未央ちゃんはオレらの真ん中にいればいいよ。そうしたら迷子にならなくてすむでしょ?」
「飛鳥……お前、いつのまに」
「コイツがおとなしく3m離れたままで済むわけないでしょ」
「それもそうなんだが……」
「ねえ、ふたりの中でオレの評価どうなってるの」
本人を前にして、やれやれと頭を抱える東くんと北斗くん。これが彼らの日常みたいだ。
「だけど、お前だけは裏切らないって信じてるからなー! 夕輝!」
そこで声を張り上げた飛鳥くんがひょいと振り向く。それこそ3m離れたところに立っていた西園寺くんが、ぴゃっと声を上げて垂直に跳ねた。
……っていうか、遠っ!
「……仕方ないか。では改めて」
ふう、と息をついた東くんが眼鏡をカチャリと鳴らしてかけ直した。
「僕が前、左右を雪弥と飛鳥。そして後ろを夕輝がカバー。これでどうかな? 間中さん」
「ど、どうって……」
前後左右にイケメンって、どんな包囲網!?
ボディーガードじゃないんだからあ!
そんな私の叫びをよそに、改めて歩き出した4人の男子。
職員室に着く頃までに、心臓が破裂しませんように……!



