春がつれてきたきみは・・・

その駅には恐ろしいほど何もなかった。

ホームに降りたのは私ひとり。

古い木のベンチが1つと、それに寄り添うように痩せたソテツの木が1本植っていた。

ホームのはるか南下には川が流れていた。

あれが月夜川かあ、とぼんやり思った。

S字を描いて流れる川はちょうどカーブの辺りが少し太くなっている。

まるで人と人が手を握り握手をいるように見えた。

無人の改札を出るとキヨスクはシャッターを閉じていた。

都合によりお休みするという張り紙が貼ってあったけど、その紙はもうボロボロになっていて、かなり長い間、店は閉ざされているようだった。

その横に木のベンチがあった。

壁には鮎釣りのポスター。

真っ黒に日焼けしたおじさんが鮎を釣り上げて笑っている写真。

その下、つまりベンチには健康そうなポスターのおじさんとは真逆の、死にかけのホームレスみたいな人がグッタリとして座っていた。

若そうだけど痩せていて生気が感じられない。

あまり関わりたくない風貌の若い男から目を逸らし、外に出た。

迎えにくると言っていたけど、監督らしき人の姿はなかった・・

って、もしかして、と私はまた駅に引き返した。

ホームレス風の若い男がベンチから半分尻を落としてまだ眠っていた。

私はポシェットから写真を取り出し、その男の姿に重ねた。

片目を閉じ、照準を合わせる。

やっぱりそうだ。色白で鼻筋の通ったその顔。

目は長い前髪が邪魔でよくわからないけど、これぞ誰かに助けを求める惨めな男の姿だと確信した。