ある男から聞いた話だ。
彼はそのころ、毎日のように遅くまで会社に残って仕事をしており、その夜も疲れ果てて自宅のマンションへと向かっていた。時刻は深夜。人けの途絶えた暗い道を歩いていると、少し前方にひとりの女が歩いていた。
奇妙なことに、その女は頭から足の先まで、すべて赤色で統一されていた。帽子も、服も、靴も、手に提げたカバンも、あざやかな赤色だった。街灯の光の下を通り過ぎるたび、その色がやけに目についたという。
とはいえ、深夜の道である。見知らぬ女の後ろを歩き続け、あらぬ疑いをかけられては面倒だ。そう考えた彼は、わざと歩く速度を落とし、適当な距離を置くことにした。きわめて賢明な判断だと思う。
ところがどうしたことだろう。前を歩く女もまた、示し合わせたかのように速度を落としたのだ。
なんだよ、面倒だな。
彼は内心でつぶやき、それならいっそさっさと追い抜いてしまおうと早足になった。すると、女もまたぴたりと歩調を合わせ、速度を上げたのである。
見えない棒でも間に挟まっているかのように、二人はきっちりと一定の間隔を保ったままで歩き、やがて彼は、自分の暮らすマンションにたどり着いてしまった。
驚いたことに、前を歩く女は彼よりも先にエントランスへと入り、そのままエレベーターに乗り込んだ。
普通なら入り口のほうへ向き直るところだが、彼女は乗り込んだときの姿勢のまま、奥の壁に向かってじっと立っている。
かごの中の無機質な光が、その異様な赤い後ろ姿をくっきりと浮かび上がらせていた。あまりの奇妙さに、彼は一緒に乗り込む気にはなれなかった。
女は最後までこちらに顔を見せることはなく、ゆっくりとドアが閉まっていった。
彼はそのころ、毎日のように遅くまで会社に残って仕事をしており、その夜も疲れ果てて自宅のマンションへと向かっていた。時刻は深夜。人けの途絶えた暗い道を歩いていると、少し前方にひとりの女が歩いていた。
奇妙なことに、その女は頭から足の先まで、すべて赤色で統一されていた。帽子も、服も、靴も、手に提げたカバンも、あざやかな赤色だった。街灯の光の下を通り過ぎるたび、その色がやけに目についたという。
とはいえ、深夜の道である。見知らぬ女の後ろを歩き続け、あらぬ疑いをかけられては面倒だ。そう考えた彼は、わざと歩く速度を落とし、適当な距離を置くことにした。きわめて賢明な判断だと思う。
ところがどうしたことだろう。前を歩く女もまた、示し合わせたかのように速度を落としたのだ。
なんだよ、面倒だな。
彼は内心でつぶやき、それならいっそさっさと追い抜いてしまおうと早足になった。すると、女もまたぴたりと歩調を合わせ、速度を上げたのである。
見えない棒でも間に挟まっているかのように、二人はきっちりと一定の間隔を保ったままで歩き、やがて彼は、自分の暮らすマンションにたどり着いてしまった。
驚いたことに、前を歩く女は彼よりも先にエントランスへと入り、そのままエレベーターに乗り込んだ。
普通なら入り口のほうへ向き直るところだが、彼女は乗り込んだときの姿勢のまま、奥の壁に向かってじっと立っている。
かごの中の無機質な光が、その異様な赤い後ろ姿をくっきりと浮かび上がらせていた。あまりの奇妙さに、彼は一緒に乗り込む気にはなれなかった。
女は最後までこちらに顔を見せることはなく、ゆっくりとドアが閉まっていった。

