その手を、もう離さない


ふと顔を上げる。

すると翡翠がこちらを見ていた。

目が合う。

今度は逸らせなかった。

翡翠が少し驚いたように目を丸くする。

それから、ふわりと笑った。

その笑顔を見るだけで、胸の中のもやもやが少しだけ薄くなる。

不思議だった。

さっきまであんなに落ち着かなかったのに。

たった一度目が合っただけで安心してしまう。

自分は本当に単純だ。

翡翠は友達に何かを言うと、小さく頭を下げた。

そして鞄を持ってこちらへ向かってくる。

その様子を見ながら、美都は気付く。

嬉しい。

ただそれだけなのに、思った以上に嬉しかった。

まるで選んでもらえたみたいで。

そんなことを考えてしまう自分に苦笑する。

恋人になってから、本当に色んな感情が忙しい。