その手を、もう離さない


「神城ー、帰んねぇの?」

友達に声をかけられ、美都は我に返った。

気付けば終礼から十分以上経っていた。

自分でも驚く。

普段ならさっさと帰るタイプだ。

教室に残る理由なんてない。

けれど今日は違った。

帰る理由よりも、帰れない理由の方が大きかった。

視線の先では翡翠がまだ友達と話している。

楽しそうだった。

本当に楽しそうだった。

その姿を見ていると邪魔をしたくない気持ちと、早くこっちに来てほしい気持ちが同時に湧いてくる。

そんな感情を抱く自分が少し面倒だった。

「先帰るわ」

「……ん」

短く返事をする。

友達は怪訝そうな顔をしたが、それ以上何も言わず教室を出ていった。

静かになる。

いや、正確には静かじゃない。

周りはまだ騒がしい。

それなのに、自分の耳には翡翠の笑い声だけが妙に響いていた。