その手を、もう離さない


そんなことを考えていたからだろうか。

放課後になっても、美都は妙に落ち着かなかった。

終礼が終わると同時に教室が騒がしくなる。

部活へ向かう生徒。

友達同士で寄り道の約束をする生徒。

椅子を引く音や笑い声があちこちから聞こえてくる。

いつもと変わらない放課後の風景だった。

けれど、美都の意識だけは別のところにあった。

窓際。

そこにいる翡翠だった。

友達に囲まれながら笑っている。

何か面白い話でもしているのだろう。

ころころと表情を変えながら話す姿は楽しそうで、見ているこちらまで少しだけ頬が緩みそうになる。

けれど同時に、胸の奥が妙にざわついた。

自分でも理由は分からない。

翡翠が笑っているのは嬉しい。

元気そうなのも嬉しい。

それなのに、なぜか落ち着かないのだ。

視線を逸らそうとする。

けれど気付けばまた見ている。

我ながらどうかしていると思う。

付き合う前だって好きだった。

好きだったはずなのに、ここまで酷くはなかった。

今は違う。

好きな人が恋人になった。

その事実が、少しずつ自分を変えている。

ふと翡翠が誰かに肩を叩かれた。

振り返る。

笑う。

そのまま友達と楽しそうに話し始める。

その光景を見た瞬間、美都は小さく眉を寄せた。

別に嫌なわけじゃない。

友達と話すなと言いたいわけでもない。

そんな権利があるとも思わない。

ただ――。

少しだけ。

ほんの少しだけ。

自分の知らないところで笑っている姿が気になった。

その感情の名前を、美都はまだ知らない。

いや。

本当は気付いているのかもしれない。

けれど認めるのが恥ずかしかった。

恋人になった途端、こんなにも独占欲が出てくるなんて思わなかったから。

翡翠は自分のものじゃない。

そんなこと分かっている。

それでも。

もう少しだけこっちを見てほしいと思ってしまう。

そんな自分に気付いてしまい、美都は深くため息を吐いた。

重症だ。

思っていた以上に。

どうしようもないくらいに。