「昔のこと思い出すだけだ」
ぽつりと零れる。
翡翠は黙って聞いていた。
「雨の日に」
そこで言葉が止まる。
父親と母親に置いていかれたこと。
全部言えなかった。
でも翡翠は無理に聞かなかった。
「そっか」
ただそれだけ言った。
その一言に少しだけ救われた気がした。
家の近くまで来る。
雨はまだ降っている。
「送る」
翡翠が言った。
「すぐそこだぞ」
「でも送る」
「なんで」
「心配だから」
またその言葉だった。
何度も聞いたはずなのに今日は少し違って聞こえる。
美都は小さく目を伏せた。
そして気付く。
雨の日に会いたいのは安心したのは。
もう翡翠だけかもしれないと。



