「神城くん」
優しい声だった。
「大丈夫?」
美都は返事ができなかった。
大丈夫じゃない。
そう言えばいいだけなのに言葉が出てこない。
翡翠は少しだけ困った顔をする。
「ほら」
傘をもう一度傾けた。
「風邪ひくよ」
あの日と同じ言葉だった。
公園で初めて話した日。
雨の中びしょ濡れになっていた自分へ向けられた言葉。
美都はゆっくり傘の中へ入った。
二人の距離が近くなる。
肩が触れそうだった。
翡翠は何も言わない。
ただ美都が濡れないように傘を傾けている。
そのことに気付いてしまう。
「濡れるぞ」
ぽつりと言う。
「神城くんの方が大事」
即答だった。
美都は言葉を失う。
翡翠は気付いていない。
自分がどれだけ破壊力のあることを言ったのか。



