「……帰るな」 掠れた声だった。 でも。 翡翠には十分だった。 美都の手は。 まだ袖を掴んでいる。 少しだけ。 本当に少しだけ。 でも。 離そうとしない。 翡翠の胸が苦しくなる。 嬉しくて。 愛しくて。 どうしようもなく。 「神城くん」 優しく呼ぶ。 美都は顔を上げない。 耳だけ赤い。 「帰らないよ」 その言葉に。 美都の肩から少しだけ力が抜けた。 翡翠は気付いてしまう。 自分の言葉一つで。 この人はこんな顔をする。 それが嬉しかった。