橘家へ着く。
雨はもう止みかけていた。
玄関へ入る。
美都は少しだけ息を吐いた。
ここへ来ると落ち着く。
最近は特に。
そんな自分がおかしいことも分かっていた。
「ただいまー」
翡翠が声をかける。
その時だった。
スマホが震える。
画面を見る。
『緋色』
翡翠は通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『姉ちゃーん!』
元気な声が聞こえる。
翡翠が少し笑う。
「どうしたの?」
『今日友達ん家泊まる!』
「え?」
翡翠が固まる。
『前から約束してたやつ!』
そういえば言っていた気もする。
『だから今日は帰らないから!』
「ちょっと待っ――」
プツッ。
電話が切れた。
沈黙。
リビングが静まり返る。
翡翠はゆっくり顔を上げた。
そして。
美都と目が合う。



