一方で翡翠も静かだった。
いつもなら話しかけている。
でも今日は違う。
頭の中がいっぱいだった。
神城くんは特別。
さっき自分で言った言葉。
嘘じゃない。
本音だった。
だからこそ妙に意識してしまう。
美都が隣にいる。
安心する。
見えなくなると探してしまう。
元気がないと気になる。
泣いていると苦しい。
今日崩れ落ちた姿を見た時本気で怖かった。
もし間に合わなかったらもし一人だったらそう考えるだけで胸が締め付けられる。
「翡翠」
不意に呼ばれる。
翡翠は顔を上げた。
「なに?」
美都は少し黙る。
そして小さく言った。
「……ありがとう」
翡翠が目を見開く。
珍しかった。
美都が素直に礼を言うなんて。
翡翠はふっと笑った。
「どういたしまして」
その笑顔を見て胸がまた苦しくなる。
そして翡翠も少しだけ胸が鳴る。
雨はもう止んでいた。
けれど二人の中には新しい感情が静かに芽生え始めていた。



