翡翠は何も迷わなかった。
美都を抱きしめる腕に力を込める。
「いるよ」
小さく答える。
「そばにいる」
美都の肩が震える。
翡翠は続ける。
「一人にしない」
何度も何度も言い聞かせるように。
「だから大丈夫」
「本当に……?」
泣きながら聞く。
子供みたいな声だった。
翡翠の胸が痛む。
「本当」
即答だった。
迷いなんてない。
「いなくならない」
雨音が響く。
でもその声はちゃんと届いた。
美都の心の奥まで。
美都は目を閉じると翡翠の温もりを感じる。
初めてだった。
こんな風に誰かに縋ったのは。
こんな風に弱さを見せたのは。
そして初めてだった。
誰かがその手を離さなかったのは。
雨はまだ降り続いていた。
それでも今だけは少しだけ温かかった。



