「帰ろ?」
翡翠が言う。
美都は小さく首を振った。
「嫌だ」
自分でも驚く。
また本音が出た。
翡翠も少し目を丸くする。
「なんで?」
その問いに言葉が詰まる。
なんで?
そんなの決まっている。
家に帰りたくない。
一人になりたくない。
沈黙。
雨音だけが響く。
やがて美都が小さく口を開いた。
「……一人が」
翡翠が息を呑む。
「怖い」
震える声だった。
誰にも言ったことがない。
認めたこともない。
でももう隠せなかった。
「家にいると」
声が掠れる。
「思い出しくない事を思い出す」
父親。
母親。
閉まるドア。
置いていかれた日。
全部。



