「俺のこと考えてみてくれないか」
男子の言葉が廊下に響く。
翡翠は少し驚いた顔をした。
でも答えようとしたその時だった。
男子がふと後ろを見る。
「あれ」
翡翠も振り返るけど誰もいない。
でも男子は眉をひそめた。
「今、神城いたよな?」
その瞬間翡翠の心臓が跳ねた。
「え?」
「角のとこ」
男子が指差す。
「いた気がしたんだけど」
翡翠の顔から血の気が引いた。
いた。
絶対にいた。
今の話を聞いた。
そう確信した。
胸がざわつく。
嫌な予感しかしない。
「橘?」
男子が呼ぶと翡翠は慌てて顔を向けた。
そして小さく頭を下げる。
「ごめん」
「え?」
「今は考えられない」
申し訳なさそうに言う。
「だから返事はできない」
男子は少し寂しそうに笑った。
「そっか」
でも翡翠はもうそれどころじゃなかった。



