翡翠は鞄を持つと玄関へ向かおうとする。
その時だった。
美都の手が動いた。
無意識だった。
翡翠の制服の袖を掴む。
ぴたりと動きが止まる。
翡翠が振り返る。
美都自身も固まった。
何をしているんだ自分は。
「神城くん?」
優しい声。
美都は俯いたまま動けない。
離さなきゃいけない。
分かっている。
でも指に力が入る。
そしてかすれるような声が零れた。
「……帰らないで」
自分でも驚くほど弱い声だった。
今にも消えそうな助けを求める子供みたいな声。
翡翠は目を見開く。
美都は顔を上げられない。
ただ震える手だけが必死に翡翠を掴んでいた。



