「全部忘れろ」
部屋の空気が止まる。
翡翠は目を瞬いた。
美都は視線を合わせない。
まるで見られてはいけないものを見られたみたいに。
「神城くん」
「忘れろ」
もう一度言う。
声は掠れていた。
翡翠は少しだけ困った顔をした。
「無理だよ」
その返事に肩が強張る。
「無理って何だ」
「だって忘れられないもん」
翡翠は正直だった。
美都は顔をしかめる。
最悪だった。
名前を呼んだ。
しかもあんな情けない声で置いてくな。
そんなことまで言った。
思い出しただけで吐き気がする。
「……見てたのか」
「うん」
即答だった。
逃げ道もない。



