「翡翠……」
ソファで眠る美都を見ながら翡翠は固まる。
初めて聞いた。
自分の名前。
しかもあんな声で。
切羽詰まった声で胸が痛くなる。
その時だった美都が苦しそうに眉を寄せる。
そして小さく呟いた。
「置いてくな……」
その後急に飛び起きる。
荒い呼吸。
滲む汗。
そして目の前に翡翠がいた。
夢じゃない。
本物だった。
「神城くん!」
翡翠が安心したように呼ぶ。
その瞬間美都の顔から血の気が引く。
全部思い出した。
名前を呼んだこと縋ったこと見られたかもしれないこと。
「……忘れろ」
掠れた声だった。
翡翠が目を瞬く。
「え?」
「今の」
美都は視線を逸らす。
震える指を握り締めた。
「全部忘れろ」
その声は今までで一番弱かった。



