翌週から、橋本くんが私をときどき昼食に誘うようになった。
「水野さん、今日ランチどうですか」
この日も、席を立とうとした私に声がかかった。
「……いいよ」
答えると、橋本くんは「ありがとうございます」と言って、財布を手に取った。喜ぶでも、ほっとするでもなく、ただいつも通りの顔で。
私たちは会社を出た。四月の終わりの昼間は上着がいらないくらい温かくて、街路樹が新芽の緑を広げていた。
橋本くんは私の半歩後ろを歩いた。どこへ行くか聞くと「水野さんの行きたいところで」と言われた。
その日は、オフィスから三分ほどのパスタ屋に入った。橋本くんはカルボナーラ、私はトマトソースのペンネを頼んだ。
待つ間、橋本くんは前職の話を少しだけした。
「ホールの仕事をしてたんですが、作るより食べる方が好きで」
そう言って、かすかに笑った。
自虐でも照れでもなく、ただ事実として言う感じだった。
話しているうちに料理が来た。橋本くんのカルボナーラが先に運ばれてきて、彼はしばらくそれを、湯気の立ち方や麺の盛り方を確かめるように眺めていた。
私は自分のペンネに手をつけながら、また横目でその様子を見ていた。
橋本くんがフォークを取った。麺を少しだけ巻いて、口に運ぶ。
一口食べた彼の眉が、また下がる。あの、一度見たら忘れられない無防備な緩み。



