「そう」
答えると、碧くんがほどけるように笑った。
そして、今度は自分からもう一度唇を重ねてきてくれた。さっきより少しだけ深く、長く。彼の少し熱い吐息が、私の唇を震わせる。
繋いだままの手には、痛いくらいに力がこもった。
離れてから彼が「帰りたくないですね」と呟く。
「……帰らないと」
「わかってます」
そう言いながらも、私たちはしばらく街灯の下から動けずにいた。
「また、ご飯行きましょう」
「今度はどこに行く?」
「麻衣さんが行きたいところ。どこでも」
どこでも。
最初のメッセージと同じ言葉が、今夜は温度を持って耳に届いた。私は繋いだ手を、ぎゅっと握り返した。
◇
おいしそうに食べる人が、苦手だった。でも、今は好きだ。
彼が食べるとき、眉がゆっくりと下がる。目元がほどけて、首筋がかすかに動く。その全部が、たまらなく好きだ。
この人の隣で食べるものが全部、世界で一番おいしい。
真夏の夜風が、二人の間を優しく抜けていった。
【完】



