おいしそうに食べる後輩が、ずるい〜年下くんの一途な溺愛〜


「そう」

答えると、碧くんがほどけるように笑った。

そして、今度は自分からもう一度唇を重ねてきてくれた。さっきより少しだけ深く、長く。彼の少し熱い吐息が、私の唇を震わせる。

繋いだままの手には、痛いくらいに力がこもった。

離れてから彼が「帰りたくないですね」と呟く。

「……帰らないと」

「わかってます」

そう言いながらも、私たちはしばらく街灯の下から動けずにいた。

「また、ご飯行きましょう」

「今度はどこに行く?」

「麻衣さんが行きたいところ。どこでも」

どこでも。

最初のメッセージと同じ言葉が、今夜は温度を持って耳に届いた。私は繋いだ手を、ぎゅっと握り返した。



おいしそうに食べる人が、苦手だった。でも、今は好きだ。

彼が食べるとき、眉がゆっくりと下がる。目元がほどけて、首筋がかすかに動く。その全部が、たまらなく好きだ。

この人の隣で食べるものが全部、世界で一番おいしい。

真夏の夜風が、二人の間を優しく抜けていった。

【完】