私たちの部署では週に何度か、近くの店へ連れ立って行く習慣があり、配属された橋本くんも自然とその輪に入ってきた。
最初に気になったのは、ある火曜日のことだ。
会社の近くにある定食屋で、私は橋本くんの隣の席になった。彼は日替わりの魚定食を頼んで、運ばれてきた瞬間に少しだけ顔が変わった。
目が細くなる、というより、全体がやわらかくなる感じだった。それから、箸をとる前に「いただきます」と言った。小さな声で、ちゃんと。
私は自分のランチに目を落としながら、横目でその様子を見ていた。見るつもりなんてなかったのに。
彼が魚に箸を入れた。きれいに、骨を避けながら。一口、口に運んで、白米を追うように口に含む。少しの間があって、首筋がかすかに動いた。
「これ、美味しいですね」
言葉は少ない。でも、その顔が全てを語っていた。眉が、ほんの少し下がって、目がやわらかく細くなった。
美味しいものを食べた時にだけ出る、無意識の動きだと、なぜかすぐにわかった。
私は視線を逸らした。喉の奥が、ちくりと疼く。古傷みたいに。
苦手だ、と思った。おいしそうに食べる人が。目の前で、そんなふうに無防備に本能を晒されると、どうしていいかわからなくなる。
人がおいしそうに食べる姿に、なぜこんなに息が詰まるのか。その理由が苦手ではなくフェチに近い何かだと気づくのは、まだずっと先のことだった。
私は逃げるように、冷めかけた自分のパスタを口に押し込んだ。



