デザートのパンナコッタに二人でスプーンを伸ばしていた頃、碧くんが「一個聞いていいですか」と言った。
「最初のときのこと。定食屋で俺が食べてたとき、麻衣さんが目を逸らしたの、気づいてたので」
最初から、気づいていたのか。
「……苦手だったのは、碧くんじゃなくて」
「わかってます。だから待ってたんです。苦手が、解けるまで」
待っていた。入社初日に社食で私を見つけて、隣に行きたいと思って、四ヶ月、ただ隣で食べ続けて待っていた。
それがどれだけのことか伝わってきて、目の奥が熱くなった。
テーブルの上の私の手に、彼の手が重なった。大きくて、温かくて、迷いのない手だった。
「おいしそうに食べる人が、好きです」
碧くんがゆっくりと、言い聞かせるように言った。
「麻衣さんが何かを食べるとき、眉が少し動くんです。目が変わる。それを見る度に、もっと近くで見たいと思ってた。麻衣さんのことが、ずっと好きでした」
その言葉が全部、胸の奥に落ちてきた。
私が苦手だと思って目を逸らし続けていたものを、この人はずっと、好きだと思って見ていた。



