おいしそうに食べる後輩が、ずるい〜年下くんの一途な溺愛〜


胸の奥で、長い間張り詰めていたものが静かに解けていく。余裕に見えた横顔の裏で、この人もずっと堪えていたのだ。

「だから、あなたと一緒に食べたかった。水野さんがおいしそうに食べているのを、そばで見ていたかった」

七月の蒸し暑さの中で、彼の言葉だけがひどく涼しく届いた。

「……私、美味しそうに食べてる?」

ようやく絞り出せたのは、そんな間抜けな言葉だった。

「食べてますよ。食べることに、ちゃんと向き合ってる。水野さんの食べ方を見てると、ご飯が余計に美味く感じるっていうか。一緒に食べて良かったって思う」

その言葉が、三年分の重さを少しだけ溶かした。

「水野さん。今度、ちゃんとしたご飯、行きませんか。ランチじゃなくて」

言い訳のできない場所で、向かい合って食べる、ということ。それがどういう意味を持つか、橋本くんはわかって言っている。

「それ、どういう意味で誘ってるの?」

「全部、含めて、です」

即答だった。世界がざわついているのに、橋本くんの前だけが妙に静かだった。

「……少し、考えさせて」

「わかりました」

急かす様子も落胆する様子もなく、ただ穏やかに。だけど別れ際の「おやすみなさい」が、いつもより低くて、少しだけ甘かった。

ずるいな、と思った。こんなに真剣に見ていたくせに、穏やかな顔で待てるなんて。



週が明けた月曜日、私は橋本くんに『今週末、空いてる?』とメッセージを送った。返信は三分もかからなかった。

【空いてます。いつでも】

いつでも、の文字が、胸に刺さった。