「水野さんのこと、ずっと見てたんです。入社したときから」
「……え? 最初から、見てたってこと?」
「俺が入社した日、最初のお昼、一人で社食に行ったら端っこのテーブルに水野さんがいた。一人で定食をすごく美味しそうに食べてて。仕事のことを考えているのか、眉を寄せながらも、箸だけはちゃんと動かしてて」
橋本くんが、わずかに目を細めた。思い出しているのか今の私を見ているのか、判別がつかなかった。
「先輩が一口運ぶ度に小さく動く唇とか、美味しそうに伏せられる睫毛から、なぜか目が離せなくなっちゃったんです。あ、この人好きだ、って直感的に思って……」
彼の言葉が耳に落ちてきた瞬間、息の仕方がわからなくなった。自分では覚えてもいない姿が、この人の心に刻まれていたなんて。
「他の誰でもない、俺がこの人の隣に行きたいって。──それが全部です」
少し間があった。
「本当は、もっと早く誘いたかったんですけどね」
橋本くんが、目を逸らした。余裕のある顔が、初めてほんの少しだけ崩れた気がした。
「警戒されたら終わりだと思ったので、待ってました。水野さんが俺のことを見てくれるようになるまで」
そう言った彼の、ジャケットを持つ大きな手が、わずかにきつく握りしめられているのが見えた。



