「仕事ができて、見た目もよくて。でも、ご飯を食べる時、いつもスマホを見てた。どこに行っても何を食べても、ずっと。私の顔なんて、一秒も見ないの。それで、彼と一緒にご飯を食べるのが、だんだん怖くなってきて」
言葉にしてみると、あの頃の息苦しさが輪郭を持って戻ってくる気がした。
「だから、逆においしそうに食べてる人を見ると、胸が痛くなるようになって。苦手だと思ってたけど、本当はただ、目が離せなかっただけで」
言いながら、気づいた。苦手だったんじゃなくて、悲しかったのかもしれない。あの人が食事の時間を、私との時間を、ぞんざいにしていたことが。
胸が疼いていたのは、嫉妬でも嫌悪でもなく、ただの悲しさだったのかもしれない。
「まあ、そういうことがあって。だから六月は、ちょっと苦手で」
雨が窓を叩く音だけが聞こえる。
「それ、もったいないですね」
「もったいない?」
「食べることって、その人が全部出るから。何を選ぶかとか、どんな顔で食べるかとか、誰かと食べるときに何を話すかとか。全部、その人そのものだと思うから。それを見せてもらえる時間を、ぞんざいにするのはもったいない」
私は返事ができなかった。その言葉が、思ったより深いところに落ちた。
「橋本くんは、どうしていつもそんなに美味しそうに食べるの?」
「美味しいから、じゃだめですか」
「それだけ?」
「あとは……一緒に食べている人のことが、好きだから」



