紫陽花の短編集物語#2

最悪な義母 第1話 割れたグラスの罪

週末。達也の実家。豪華だが、過剰に整頓されたリビング。京子は腕を組み、静かにソファに座っている。彩香と達也が、京子の目の前でコーヒーを飲んでいる。
達也 (少し緊張しながら) いやー、母さんの家はいつ来ても綺麗だね。
京子 (冷たく) 当たり前でしょう。雑な人がいると、すぐに乱れるから、気を使っているわ。
彩香は、自分のことだと察して、コーヒーカップを持つ手が震える。
その時、達也が立ち上がろうとした拍子に、テーブルの端に置いてあった高価そうなクリスタルグラスを肘で引っ掛けてしまう。
キン、ガシャーン! グラスは床に落ち、粉々に割れる。
達也 (慌てて) あ!ご、ごめん、母さん!大丈夫!?
京子は、割れたグラスを見ても表情一つ変えない。代わりに、彩香を冷たく見つめる。
京子 (静かに、しかし威圧的な声で) 達也。あなたの落ち着きのなさは、どこから来ているのかしら?
達也 え?
京子 (彩香を指し) 彩香さんが来てからよ。あなたの周りが雑然として、生活の規律が乱れたから、ミスが増えたのよ。
彩香 (ショックを受け、言葉が出ない) お、お義母さん…。割ったのは、達也さんです。
京子 (ため息をつき) あなたから伝染した、雑な性格が原因で、達也がミスをした。そういうことよ。あなた、すぐにその破片を片付けて。
達也は、母の言葉に反論できず、うつむいたまま彩香を見る。
達也 (小声で) 彩香…ごめん。
彩香は、京子の理不尽な攻撃と、庇ってくれない夫に、悔しさと怒りが込み上げてくる。割れたグラスの破片が、自分自身の心のガラスのようだと感じる。














最悪な義母 第2話 タツヤの失敗と母の脚本

夜。マンションのリビング。達也は背広のままソファに沈み込み、顔を覆っている。彩香が心配そうに隣に座っている。
彩香 (優しく) 達也さん、どうしたの?そんなに落ち込んで。今日、会社で何かあったんでしょう?
達也 (重い声で) ……大きなミスをした。会社の損失になるかもしれない。取引先との関係も、全部、俺のせいで台無しだ。
彩香 (達也の背中をさすりながら) 大丈夫だよ。達也さんは頑張った。二人でなんとかしよう。
その時、電話が鳴る。画面には「母(京子)」の文字。
達也 (飛び上がるように電話を取る) あ、母さん。
京子 (電話の声。落ち着いているが、冷たい) 達也? 今、ニュースであなたの会社の件を聞いたわ。大変だったわね。
達也 ごめん、母さん。本当に、俺が不注意で。
京子 (電話の声) いいえ。あなたのミスは、あなた自身の問題じゃないわ。
達也 え?
京子 (電話の声) あなたは昔から完璧だった。問題は、あなたの生活よ。最近、彩香さんの作る料理、どんなもの?
彩香は、夫の隣で息をのむ。
京子 (電話の声) あんなものばかり食べているから、あなたの体が栄養失調になり、集中力が低下したのよ。失敗は、あなたの食生活を乱した彩香さんの責任よ。
達也は、電話を持つ手が震える。京子の理屈に、反論する言葉が見つからない。
達也 (苦しそうに、小声で) でも、母さん、彩香はちゃんと…。
京子 (電話の声。さらに圧をかける) いいの。あなたは頑張りすぎたのよ。明日、私があなたの体を立て直す食事を持って、あなたの家に行くわ。絶対に外食しないで、待っているのよ。
京子は一方的に電話を切る。
彩香は、顔面蒼白で達也を見つめる。達也は、母にすべてを操縦され、自分を庇う力が完全に失われている。
達也 (彩香から目を逸らし、力なく) ごめん、彩香。
彩香 (静かに) ……違う。謝るのは、あなたじゃないでしょう?
彩香は、京子の「見えない毒」が、自分たちの家庭を壊していることを痛感する。










最悪な義母 最終話 二度と割れない境界線

昼。マンションのリビング。京子が大量の手料理と、栄養ドリンクの箱を持って、予告通りやって来た。達也は、母の横で何も言わずに立っている。
京子 (彩香の手料理を無視し、達也に) 達也、見てごらんなさい。あなたの顔色、すっかり悪くなっているわ。彩香さんの雑な管理のせいで、あなたの人生全てが崩れてしまう。
彩香 (我慢の限界を迎え、静かに) お義母さん。私のせいにしないでください。
京子 (鋭く) 何を言っているの? あなたに達也の将来を任せられないことは、もう明白よ。達也。今すぐこの女と別れなさい。 あなたが元の完璧なあなたに戻るまで、私が全て管理するわ。
達也は、母の言葉に怯え、彩香を庇うことができない。
彩香 (京子に向き直り、強い目で) それは、違います。達也さんが失敗したのは、お義母さんが完璧を押し付けすぎたからです。失敗を許してもらえないから、彼はいつも怯えている。
京子 (顔色を変え、激昂する) 誰のせいで、この子が今日まで完璧でいられたと思っているの!あなたは、泥棒よ! 私の息子から、彼の人生を奪った!
京子は、テーブルの上にあった高価な陶器の皿を掴み、叩きつける勢いで床に投げつけようとする。
その瞬間、達也が動いた。
達也 (母の手首を強く掴み、震える声で) やめてくれ、母さん!
京子は、息子に力を込めて制止されたことに、人生最大のショックを受ける。
達也 (涙を流しながら、母の目を見て) 割ったのは、俺だよ。グラスも、仕事も、全部俺のせいだ。彩香は、俺の唯一の理解者なんだ。
彩也 (達也の覚悟を見て、そっと背中に手を置く)
京子 (陶器の皿を取り落とし、呆然と) た、達也……?
達也 (京子から離れ、彩香の隣に立つ。明確な境界線を作るように) もう、彩香を責めないでくれ。俺たちの家庭のことは、俺たちが決める。母さんは、俺たちの家に、二度と境界線を越えて踏み込まないでくれ。
京子は、息子と嫁の二度と揺るがない強い絆に打ちのめされ、何も言い返すことができない。
京子は、テーブルに散らばった栄養ドリンクの箱を放り出し、怒りと寂しさが入り混じった表情で、音を立てて玄関から出ていく。
彩香は、達也の手を強く握る。達也は、母の呪縛から解放され、初めて「夫」になった顔を見せる。



「本当に割れてはいけないものは、家族の信頼だった。」