口の悪い瀬尾くんは、私だけを溺愛する

「ここは、もっと前向きなセリフでよくね?」

二日きりの昨日と同じ空き教室。

瀬尾くんにさっそく、漫画を見てもらっている。

「そうなのかな?」

瀬尾くんの意見も悪くないが、いまいちしっくりこない。

「そうなのかな、じゃねえよ。ってかさ、読んでて思ったけど、白石って主人公みたいな口調だったのかよ?」

「そ、それは……」

この主人公は私だと言ったことを、今となって後悔する。

きっとここで、私が肯定したら瀬尾くんに一目置かれるに決まってる。弟の時みたいに。

「もし白石が、この主人公みたいだったとしても、しなくても、俺は嫌いじゃねえけどな」

私が言葉を発する前に、瀬尾くんが当たり前のように言った。

「本当に?こんな私でも相手にしてくれるの?」

「ああ。白石が素の自分を取り戻していく、それが約束。違うか?」

漫画を見られたことに焦りすぎて、そんなこと覚えていなかった。

本気にしていなかった。

「瀬尾くん。これから、よろしくね」

◇◇◇

「雨、降ってきちゃった。どうしよう」

今日は一人で、図書館で漫画を書いていた。

帰る準備をしていたところ、雨が降ってきた。

最近は梅雨の時期に入り、雨が多いのにどうして傘を忘れたんだろ。

「白石、まだ帰ってなかったのか。雨、これ以上激しくなる前に帰ったほうがいいんじゃねえか?」

ガラッと、扉が開く音がして、聞き慣れた声がかけられた。

「あっ、瀬尾くん。傘、忘れちゃって……」

「それなら、俺の傘に入って行くか?」

それって、相合傘ってことだよね。

そんなことできるわけない。

けれど、このままだとずっと帰れないよね。

「俺は行くからな。早く来いよ」

◇◇◇

距離が近すぎる。顔を直視できない。

結局、瀬尾くんの傘に入れてもらうことになった。

周りの人は私たちのことを一瞥してくる。

この光景、絶対恋人確定だよね。

「漫画、順調か?」

そんな私の気持ちを知る由もなく、いつも通り話しかけてくる。

私と瀬尾くんの肩が触れる。

ふと顔を上げると、傘を私のほうに傾けてくれて、瀬尾くんは少し濡れていた。

「う、うん。順調だよ」

私は俯きながら、それだけ答える。

私の頬はきっと紅潮してるんだろうな。