口の悪い瀬尾くんは、私だけを溺愛する

サッサッと、私が漫画を描く音だけが放課後の静かな図書館内に響く。

「何してるんだよ」

不意に後ろから、鋭い声がかけられた。

「あっ、えっと、これは……」

振り向くと同級生の瀬尾くんが立っていた。

声の正体を知った私は、怯えて固まってしまう。

瀬尾くん、口調がきつくて学年中の女子から恐れられている。

「悪かった。怖がらせて。そんなにおびえるなよ、白石」

その言葉で私は、涙を流していたことに気付かされる。

「それは何?」

瀬尾くんは私の漫画の原稿を、指して訊ねてくる。

「こ、これはなんでもないの」

私は慌てて、机の上を片付けて道具を隠す。

「そこまで見られたくないなんて、何かあんのかよ?」

瀬尾くんは口調とは裏腹に、どこか優しげな目を向けてくる。

「う、うん。弟が……」

「ここだと、落ち着かないから場所を移動するか」

◇◇◇

「それで何?」

空き教室に移動してきた。

「今は、漫画を書いていたんだ。でも、弟に、馬鹿にされたことを思い出しちゃって」

思い出せば思い出すほど、涙があふれ出してくる。

瀬尾くんは、頷きながら真剣に聞いてくれている。

「あ、あと、私、本当はこんな感じじゃないの。弟が昔、私の口調が気に食わないとか言ってきて……」

辛さのあまり、関係ないことまで話してしまう。

「白石の弟、何者なんだよ。それより、その漫画、俺に見せろよ」

「あっ、うん」

本当は見せたくなかったけど、私の話を非難することなく受け入れてくれた、瀬尾くんならと思ってノートを渡した。

「これ、白石が書いたのかよ。すげーじゃん。でも、なんかこの主人公寂しそう」

「この主人公私なんだ」

私の漫画は、実体験を基にしたもの。

瀬尾くんには、見透かされていたみたい。

「これから、この漫画を明るくして、白石は素の自分を取り戻していかないか?こうやって、放課後に」

「やってみようかな」

私は即答していた。

なぜここまで、私に寄り添ってくれるのかはわからないけど、私の過去の話を聞いてくれた瀬尾くんとなら。