それからしばらくして。
王都近くの村に、魔獣が現れた。
近衛騎士団は、王族の護衛と同時に、国の治安維持も担う。
そのため、こうした討伐任務に出ることも少なくない。
クロードとリゼも、その任務に駆り出されていた。
村の外れ。
崩れた家の前で、リゼは小さな少女を見つけた。
「大丈夫?」
少女は震えたまま、動けない。
「ママが……」
指の先。
瓦礫の下に、女性の姿が見えた。
「大丈夫よ。私が助ける。」
リゼは仲間に少女を預けると、崩れた家へ駆け寄った。
「待て、リゼ。危険だ。」
クロードの声が背中から飛ぶ。
だがリゼは、振り返らない。
「今にも全部崩れるかもしれない。助けるなら今しかない。」
そう言って、瓦礫に手をかけた。
その瞬間だった。
「魔獣だ!まだ生きてる!」
空気が裂けるような叫び。
見上げると、大きな魔獣が空から降下してくる。
「リゼ!」
クロードの声。
剣を抜く音。
駆け出す足音。
そして――
仲間のそばにいたはずの少女が、走り出した。
まっすぐに、母のもとへ。
「こっちへ来てはダメ!」
リゼの叫びは、魔獣の咆哮に飲み込まれた。
次の瞬間。
視界が白く弾けた。
気づいたときには、静かだった。
腕の中で、少女はもう動いていなかった。
瓦礫の下から救い出した女性も、同じように。
リゼの指先が、わずかに震える。
(守るって、言ったのに)
喉の奥が、ひりつく。
息がうまくできない。
「……守れなかった。」
声が、かすれて落ちる。
「……ああ。」
すぐそばで、クロードの声がした。
「絶対守るって……大丈夫だって……」
言葉が途切れる。
唇が震える。
「私……嘘つきだ。」
「……お前は悪くない。」
その言葉に、顔を上げた瞬間だった。
視界が滲む。
止めたかったのに、止まらない。
一筋、頬を伝った。
「……っ、違う、これは……」
慌てて拭おうとする手を、クロードがそっと制した。
「わかってる。」
それだけだった。
クロードは少女の目をそっと閉じると、小さく息を吐いた。
「帰ろう。」
その声は、ひどく静かだった。
リゼは、ゆっくりと立ち上がった。
涙の跡をそのままに。


