あの日の風の、その続き〜戦う公爵令嬢と、王女が選んだ未来






「今日はエリシア様の護衛だ。
無事目的地に着くまで、気を抜かず任務に当たれ。」


数日後、近衛騎士としての任務が下された。

王女エリシアを、隣国アルディス王国まで護衛する。

アルディスは平和な国だが、そこへ向かう陸路には問題があった。

西のウエスト領と、北のノース領。

古くから小競り合いの絶えない両領の近くを通る必要があるのだ。

治安は悪く、決して安全とは言えない。

海路を使えば安全だが、日数が倍かかる。

そのため、ルートを調整しながら陸路で進むことが決まった。

「リゼは北側、クロードは西側の陣営だ。アルディス領に入ったら合流する。」

その言葉に、リゼは目を見開いた。

エリシアは西側。

――クロードの担当だ。

「次期副団長として、頼むぞ。」

「……はい。」

そのやり取りが、妙に耳に残る。

リゼは、無意識に拳を握りしめていた。


「最近リゼ様とクロード、ギスギスしてないか?」

「喧嘩でもしたのか?」

「さぁな。」

そんな噂が団内で囁かれている。

クロードが次期副団長と聞いてから、

リゼの中に、消えない感情が残っていた。


――私の方が強いのに。

子供の頃から、一度も負けたことがない。

それなのに。

その思いは、態度に出ていた。

クロードも、それに気付いていながら、何も言えずにいた。


「北側から攻撃!ノースの連中が、ウエスト兵と誤認して仕掛けてきた!」

「なんだって!?」

進軍は順調だったはずだった。

戦うつもりなどない。

ただ通過するだけの任務。

それなのに。

「北側の陣営はほぼ壊滅!応援に行ける者は――」

その言葉を聞いた瞬間、クロードは動いていた。

「……すまん、王女を頼む。」

「おい、クロード!?」


自分の役目は、エリシアを守ること。

それは理解している。

理解している、はずなのに。

足は、止まらなかった。



戦場に辿り着いた瞬間、息を呑む。

血の匂い。

倒れ伏す兵たち。

見知った顔もある。

「リゼ!」

叫ぶ。

返事はない。

「リゼ!!」

そのとき、視界の端で青銀の髪が揺れた。

「リゼ様!」

兵の声。

その先で、リゼの体が崩れ落ちる。

「リゼ!」

「……クロード?」

肩まで切り落とされた髪。

血に濡れた腕。

その姿を見た瞬間、胸が凍りついた。

「……っ!」

「クロード、あんた何してるの!?」

怒鳴る声。

だが、その声も震えている。

「エリシアは!?あんたが守るのはエリシアでしょう!
たとえ私がここで死んだって、あんたは――」

その言葉で、何かが切れた。


「……ふざけんな。」

「は?」


「お前が――」

言葉が詰まる。

堪えていたものが、溢れる。


「お前がいない世界で……」

息が、うまくできない。


「俺は、どうやって生きればいい。」


静かだった。

けれど、震えていた。

リゼが、息を呑む。

「……クロ――」

その瞬間。

「第二波だ!」

「おい!リゼ、クロード!話は後だ!西側と合流するぞ!」

仲間の声。

クロードは無言でリゼの手を掴む。

「ちょ、痛いってば!」

振り返らない。

離さない。

強く、強く握ったまま、走り出す。

その手の強さに――

リゼは、もう何も言えなかった。