あの日の風の、その続き〜戦う公爵令嬢と、王女が選んだ未来





その後、庭へ戻ると、リゼとクロードが二人を探していた。

エリシアは二人を見ると、その大きな瞳を揺らし、そして言った。

「私がどんな選択をしても……これからも、一緒にいてくれる?」

その言葉に、二人は顔を見合わせる。

「当たり前じゃない!」

「当たり前だろう」

即答だった。

その返事に、エリシアは微笑む。

その顔には、静かな決意が満ちていた――。



ーーー



ざわめきが、波のように広がっていく。


「……今、なんと?」

誰かの戸惑いの声。

広間に集まった貴族たちの視線が、一斉にエリシアへと向けられる。

王座の前。

背筋を伸ばしたまま、エリシアは一歩も引かなかった。

「結婚はできません」

その声は、震えていなかった。

「私には、ずっと慕っている方がいます。その方以外の方との結婚は、考えられません」

息を呑む気配。

誰もが言葉を失う中で、

ただ一人、静かにその言葉を受け止めた男がいた。

「……そう、ですか」

レオンは、穏やかに微笑んだ。

どこまでも優しく、どこまでも綺麗な笑顔で。

「あなたらしい選択だと思います」

その言葉に、エリシアは一瞬だけ目を伏せる。

「……ごめんなさい」

「謝る必要はありません。むしろ――」

一拍、間を置いて。

「あなたに出逢えて、よかった」

その言葉は、誰よりも誠実で、

そして静かに終わりを告げていた。

――完全な敗北を、美しく受け入れる男の姿だった。

広間の空気が揺れる。

王妃は言葉を失い、国王は額を押さえる。

側近たちがざわめき、貴族たちがひそひそと声を交わす。

それでも。

エリシアの視線は、ただ一人を探していた。

そして――見つける。

広間の端。

人の輪から一歩引いた場所に、彼は立っていた。

ゼン・クラウディア。

宮廷護衛隊総長として、ただ静かにそこに在る。

動かない。

何も言わない。

表情すら、ほとんど変わらない。

それでも――

その瞳だけが、わずかに揺れていた。

(……ゼン)

名前を呼びたい衝動を、飲み込む。

視線が重なる。

ほんの一瞬。

それだけで、十分だった。

言葉はいらなかった。

エリシアは、ゆっくりと息を吸う。

そして――

もう一度、前を向いた。

「……私は、この選択を変えません」

その声に、迷いはなかった。

広間が、大きく揺れる。

ゼンは、ただ静かに立ち続けていた。

まるで、

その選択を最後まで見届けると決めたかのように。




――その夜。

誰もいない回廊で。


「――エリシア」

名前で呼ばれたその声に、

張り詰めていたエリシアの表情が、やわらかくほどけた。