夜の庭に、風が吹いている。
ざわり、と木々が揺れる。
その音を聞いた瞬間――
ふと、思い出した。
あの場所。
あの日。
幼い少女が「誰にも見つからない」と笑っていた、あの場所。
根拠なんてない。
けれど、確信に近い何かがあった。
ゼンは、静かにその場を離れた。
リゼが何か言っていた。
けれど、その声は届かない。
足は、止まらなかった。
夜の庭を、風がすり抜ける。
ざわり、と葉が揺れる音だけが、やけに大きく響く。
ゼンは、歩いた。
幼い頃。
かくれんぼをするたび、エリシアがよく隠れる場所があった。
リゼたちが見つけられないと、剣の稽古をしている自分を呼びに来る。
――見つけるのは、いつもゼンだった。
リゼもクロードも知らない場所。
見つけるたび、エリシアは拗ねたように頬を膨らませて。
それでも、嬉しそうに笑っていた。
『秘密よ。この場所は、リゼたちには教えてはダメよ』
――忘れるはずがない。
古びた扉の前で、ゼンは足を止めた。
ゆっくりと、手をかける。
その指が、止まる。
――違っていたら。
一瞬、そんな考えがよぎる。
振り払うように、力を込めた。
軋む音。
扉が、静かに開く。
そこに――
いた。
月明かりの差し込む、小さな空間。
膝を抱えて座り込む、ひとつの影。
気配に気付いたのか、顔が上がる。
揺れる金の髪。
そして――青い瞳。
「やっぱり……ゼンには見つかっちゃうのね」
どこか、諦めたような声。
けれど、その奥に。
確かに滲んでいるものがある。
――泣いてはいないはずなのに。
ゼンは、一歩踏み込む。
「……ここだと思った」
月明かりが、二人の間に細く落ちていた。


